中小企業にも賃上げの波は広がるのか給与アップの条件(3/4 ページ)

» 2023年01月26日 08時00分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

 その構造的要因を踏まえ、中小企業が賃上げを実現するには付加価値を確保・拡大する必要が絶対的にある。そのための方策は3つ。すなわち「適正な価格転嫁の実現」「差別化戦略の実行」「生産性の向上」の3つを組み合わせることだ。いずれも簡単ではない。

 「適正な価格転嫁の実現」は直近の対策だ。主に大手企業と取引しているB2Bビジネスの場合を想定すると、過去の原価や売価の推移記録をエビデンスとして取引先に示し説得する、地道なやり方しかない。そしてそうした妥当な要請に耳を貸さないたちの悪い大企業取引先を思い切って「切る」一方で、よい取引先との取引を地道に開拓し増やすことで原価率を改善するのが近道だし、王道だ。

 中期的な対策ながら、一番重要かつ効果的なのは2つめの「差別化戦略の実行」だ。長年のデフレ下で色々な業界が価格競争に陥ったのは、多くの企業が知恵を使わずに同質的な商品やサービスでの競争に埋没したからだ。特に中小企業はその傾向が強かったと思う。

 裏返せば、今後中小企業が最も重要視すべきは、商品・サービスの差別化を図り、自社ブランドの開発を進めるなどで価格決定力を持っていくことだ。これは簡単ではないが、少なくとも個々の会社の頑張りと工夫次第で可能な話だ。そして成功事例はそれなりにあり、継続的に取り組むことで知恵はついてくるという性格の話だ。

 3つめの「生産性向上」は、業界によっては短期的にも可能だが大半の中小企業にとっては中長期的な対策で、典型的にはデジタル化、さらにはDX化の推進だ。デジタル化の遅れによって日本の中小企業の労働生産性は大企業のおよそ半分だと言われている。だからデジタル化・DX化を進めなさい、というのが世の評論家や官僚たちの言い分だ。しかし事はそれほど単純じゃない。

 多くの中小企業の業務で最も手間が掛かる部分は受発注および請求処理だ。その部分をDX化して効果を上げるためには、自社単独でIT化・ソフトサービス導入を実施するだけでは完結しない。むしろ中途半端に着手しても、一部はオンライン(しかも取引先に合わせて多数のシステムを導入しなくてはいけないことも少なくない)、一部はファクス、一部は電話での受発注処理、と却って煩雑化してしまいかねない。

Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.