ヤマダの王座危うし!? 西武売却で塗り替わる、家電量販店の業界マップ小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2023年01月30日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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このままでは危うい、ヤマダの王座 打開策はあるか?

 ヤマダは集客力向上を目指して、生活雑貨を取り入れたり、住宅、家具を買収することで、リフォーム、家具など家周り需要に対応する店舗へと変わりつつある。だが、その成果が顕著に出ているとは言い難い。

 3000〜5000平方メートルの売場面積は家電量販店としては大きいのであろうが、家電の品ぞろえを維持しつつ、生活雑貨、家具なども含めた家周り需要をフルにカバーするためには小さいのかもしれない。家周り雑貨をフルカバーするホームセンターはそれだけでも今や5000〜8000平方メートルは当たり前になっている。中途半端な品そろえでは、結局は来店につながるほどの魅力にはならないのである。

 ヤマダは、大型ホームセンター運営のアークランズと店舗開発における業務提携を結んで、22年2月には1号店「テックランド ビバホーム一宮店」、9月には2号店「テックランド ビバホーム八王子多摩美大前店」を出店している。2号店は、売場面積1万2000平方メートル、加えて、2万3800平方メートルのショッピングセンターを併設して、食品スーパー、ヤオコーなどのテナントも充実している(図表3)。

図表3、ビバホーム プレスリリースより

 これまでどちらかと言えば、自前で品そろえの拡大を図って、中途半端な売場を作っていた印象があるヤマダが、ホームセンターと組んで、食品スーパーもある複合商業施設を作るというのは、柔軟性のある判断のようにみえる。各ジャンルの有力企業との連携による消費者ニーズの充足のほうが、現時点として効果を上げるということになるのだろう。

 ヤマダの「自前」として大いに評価すべきは、リユースを軸とした環境事業の方かもしれない。買い替えにあたって引き取った家電製品を、徹底的に整備、洗浄してリユース製品として販売していきながら、その過程で出てくる廃棄物については自前の産業廃棄物処理部門で処理していくという取組なのだが、ここは他社の追随をゆるさない徹底ぶりだと言える(図表4)。

図表4、ヤマダホールディングスIR資料より

 リユース専用工場への本格的投資が行われ、最近では最終処分場をもった産廃事業者をM&Aで傘下に保有するまでになった。「売る責任を果たす」という取組を行いつつ、産業廃棄物処理事業として収益化も目指すという事業モデルは、そう遠くないうちにグループに収益貢献するようになる可能性がある。産業廃棄物処理事業は、きちんと先行投資していけば、収益化が計算できる事業なのである。

 最近では、このリユース事業を、マスコミを通じて積極的に周知していこうとする姿勢も見えている。リユースを社会的に浸透させることで、社会的にも貢献しつつ、収益拡大につながることは大いに期待していいだろう。

 最近10年ほどは、売り上げが伸び悩み、住宅事業や家具をM&Aによって傘下にいれることで、家周りの需要取込みを自前で実現するという方向で進んできたヤマダに対して、筆者は「自前への固執が成果につながらないのでは」という懸念を感じていた。

 だが、他社との連携を前提とした「テックランド ビバホーム」は、その方向性の変化を感じさせる。総合スーパーが専門店チェーンに蚕食されて、今や消えつつあるような時代に、トップ企業ならまだしも、中途半端な企業買収による品そろえ、サービス拡張では、消費者は満足しない。

 専門ジャンルにおいてレベルの高い企業がコラボすることで、付加価値を産み出そうというヤマダの方向転換に期待したい。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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