マンションにおける騒音問題には、やっかいなケースが多い。
20世紀まで住宅地内の騒音問題は、「お酒を飲んで、夜中も騒ぐ人」や「静かな住宅地内で楽器を大きな音で演奏する人」など、「大きな音を出す人」によって引き起こされるケースが多かった。
夜中に騒がれたら安眠できないし、静かな住宅地内で楽器を大音量で演奏したら赤ちゃんが起きてしまう。誰がみても「そんな時間帯やそんな場所で、大きな音を出すほうがわるい」といえる状況によって引き起こされたわけだ。
その場合、問題の解決は簡単だった。「大きな音を出すのをやめさせる」ことで済んだからだ。
ところが、21世紀に入ったあたりから異なる理由でマンションの騒音問題が発生するようになった。
それは、お酒を飲んで騒ぐこともなく、楽器を演奏することもなく、普通に生活しているのに、周囲の住人から「うるさい」といわれてしまうケースだ。
マンションで階下に住むシニア夫婦から、「子供の足音がうるさい」と文句を言われた子育て世帯があった。小さな子供がいる家庭であれば、反射的に謝ってしまう。うっかり我が家の子供が走り回ったことがあったのかもしれない、と。
その後、注意して暮らしても、やはり「うるさい」といわれてしまう。子供が幼稚園から帰ると、すぐ苦情が来るので足音が原因だと思われるが、走り回ることも、飛び跳ねることもない。
普通に歩いていても、「うるさい」といわれるのは、マンションに構造上の問題があるのかもしれない。そう考えた一家は管理員に相談した。
「普通の足音が、階下の住まいで非常に大きく聞こえるらしい」。相談を受けた管理員は、マンションの事業主である不動産会社に状況を報告。不動産会社の社員がマンションを建てた建設会社の設計担当者とともに、調査に来た。
まず、複数の人間が階下の住戸に入り、足音の聞こえ具合を確かめた。
最初は、子供が普通に歩く。次に走ったり、飛び跳ねてみた。
ここで、不動産会社の社員も建設会社の設計担当者も首をかしげた。普通に歩く足音はまったく聞こえず、走る音はわずかに聞こえて、飛び跳ねるとさすがにドスンという音が聞こえる。が、歩く音はとても騒音とはいえないレベルだった。
しかし、シニア夫婦は、普通に歩いているときも「ほら、聞こえる。うるさい」という。
調査を行った人間は全員、これは面倒な事態だと理解した。
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