マーケティング・シンカ論

寝具の西川が開発「お尻のまくら」 1万円もするのに2万個以上も売れたワケ20を超える試作品(3/3 ページ)

» 2023年05月24日 08時00分 公開
[吉見朋子ITmedia]
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発売1年未満で2万個の大ヒット

 Keepsクッションが完成するまでに西川が作った試作品は20個に上る。発案から製品化までかかった年数は2年。コミュニティーでテストマーケティングを繰り返したおかげで、消費者ニーズの解像度を高めることにつながった。

 最終テストとして先行販売したMakuakeのクラウドファンディングでは、消費者に「刺さるポイント」を押さえながらクッションの価値をうまく伝えている。

 例えば「長時間座っても違和感を覚えにくい」「姿勢の悪さが改善された」というモニターの体験談を紹介しながら、Triangle Support Systemの技術がいかに姿勢維持に有効か実験の画像とデータとともに掲載した。

 Keepsクッションは高価な商品だけに、モニターの口コミや実験データは「自分の体に合わないかもしれない」という心理的ハードルを下げることにつながっているのだろう。

 2022年9月に店頭販売がスタートすると、7カ月半後には、Makuakeで売れた1300個を含めトータルで2万個のKeepsクッションが売れた。

Makuakeでは1300個を先行販売した(画像:Makuakeの商品ページより)

 「1個1万円もするクッションが、発売1年未満で2万個販売という数字は、新商品の売り上げ初速としては非常にいい成績です。店舗の担当者からはKeepsクッションを試したお客さまが購入を即決したという喜びの声も届いています」(佐藤氏)

 Keepsクッションのほかに眠ラボを活用した事例として、フェムケア(女性の体や健康のケアをする製品・サービス)商品「まもら騎士(ナイト)」がある。生理のときの血漏れやズレなどを防ぐ下着やレギンス、ベッドシーツなどを展開。こちらは西川としては初となるフェムケア商品だったが、アンケート調査を通じて生理の悩みや着用時のサイズやフィット感などのニーズを把握し、販売価格を決定した。

社内からも頼られる存在になったコミュニティー

 眠ラボのサイトを開設した当初、「なかなか社内の興味や理解を得られなかった」と佐藤氏らは振り返る。だが、Keeps クッションの成功に影響を受け、現在は商品開発部や営業部から月に3件ほどのコミュニティー活用の相談があるという。

 「例えば、あるロングセラー商品はこれまでテレビCMなどのマス広告で訴求するだけでした。ロングセラーがゆえにあまりプロモーションに力を入れてこなかったのですが、社内で『あらためて売り出したらもっと知ってもらえるのでは?』という話になり、眠ラボを活用して新たなプロモーションを模索することになりました」(長尾氏)

 定番商品に求められるスペックやコミュニケーションチャネルを見直すため、眠ラボ会員を対象にアンケートを実施。定番商品でもインスタグラムによるアプローチが消費者への訴求力が高いと分かり、現在リール動画の制作を進めているところだという。

 価格競争に陥るのを防ぐために、高価な商品を扱うメーカーこそ商品や販促で他社との差別化を図りたい。実際に、西川はコミュニティーを活用したマーケティングでヒット商品を生み出した。

 同社の事例は、マス広告に頼るばかりではなく、消費者にとってベストな方法とタイミングで「価値」を届けるマーケティングの重要性が増していくことを示しているといえるだろう。

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