マーケティング・シンカ論

コンタクトセンターの「マニュアル廃止」 商談特化にしたら、どんな成果が出たのか?バイセルの変革記(3/3 ページ)

» 2023年07月05日 08時00分 公開
[吉見朋子ITmedia]
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リーダーとの活発なコミュニケーションが「やる気」を起こす

 トップセールスのトークを分析した結果、バイセルはKPIの評価方法も見直すことにした。コールセンター時代のKPIは、どれだけアポイントを獲得できたかという「量」に焦点を当てていたが、現在はどれだけ高ランクな顧客とのアポイントが取れたかという「質」を重視する方向に変えたのだ。

 「質」を上げるため、バイセルでは14のチームリーダーが所属するメンバー約6〜7人の育成を担っている。顧客との通話は全て録音し、トークのどこがトッププレーヤーに共通する5つの項目に当てはまるか分類する。そして何が足りなかったのか、どこをどう改善すべきかをリーダーとメンバーが個別ですり合わせていくという徹底ぶりだ。

 自分の録音音声に限らず、他のメンバーのものも使って毎日のように議論を重ねた。「サクセスシェア」と呼ぶこの時間が、メンバー同士の活発なコミュニケーションを生むきっかけになっているようだ。

 さらに梶田氏たちリーダーは、メンバーへの指導の際に肯定から入ることも意識する。決して社員の個性を否定するような強引なやり方はしないという。

 「大切なことは『スタッフの個性を尊重する』ことです。付きっきりの指導を求めるメンバーもいれば、放っておいてほしいメンバーもいます。それぞれの個性にあった教育をするように心がけています」(梶田氏)

メンバーの個性を尊重するやり方で商談の質向上を実現した(画像:ゲッティイメージズより)

 実際、まったく「嗅覚」が効かないという特殊な社員もいたが、別の部分に強みを見いだすことで弱点をカバーできたという。

 「苦手分野については、最低限押さえてほしいポイントだけを伝えます。その他の分野で本人の強みを伸ばした結果、その社員の成績もアップしました」(梶田氏)

個性重視の教育によって「商談の質」を上げる

 コンタクトセンターからインサイドセールスに改革以来、バイセルでは2〜3カ月で数字に変化が表れ始めた。これまで、顧客との通話のほとんどは資産を引き出す商談ではなく、マニュアルに沿った定型文を読み上げるだけの時間になっていた。当時、平均10分の通話時間の中で商談時間は2分を切る程度だったが、現在は3分半〜4分に伸びた。通話時間はほぼ変わらず、商談の質向上と効率化を実現したのだ。

 「たった1〜2分伸びただけですが、それが結果的に高ランク客の獲得率アップにつながっています。効果を実感するのに半年はかかると予想していたので、これは非常に驚きました」(梶田氏)

 成果を踏まえて梶田氏は「リーダーは方法を教えるのではなく、考え方を教えることが大事」と持論を展開した。社員一人一人が自分なりのマニュアル(=型)をつくることが大切だという。

 「汎用的なマニュアルは便利ですが、社員を堕落させます。あえて不便にすることによって、自分で工夫したり、人に聞いたり、行動することが肝心なのです。そのためにはまずリーダーが率先して、メンバーが自分の型をつくれるよう働きかける必要があります」(梶田氏)

 最後に、梶田氏は「当社のインサイドセールスは人が肝だと考えています」と締めくくった。営業効率を向上させるうえでマニュアルや合理化も大切だが、肝心の「心」がなければ顧客を動かすことはできない。バイセルの事例はオンライン化によって現代人が忘れがちな「心」や「個性」を大切しながら、生産性向上もできると示す好事例といえるだろう。

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