企業が給与のデジタル払いを導入する大きなメリットは、「給与支払いに関する手数料が削減できる」ことです。従来の銀行振り込みだと、振込手数料がかかります。1件当たり数百円ですが、企業規模が大きければそれなりの金額になります。
デジタルマネーでの送金の場合、手数料はかからないか、かかっても非常に安価です。また、銀行口座を持たない従業員や、パート・アルバイトといった給与額が少ない従業員に対する給与の支払い手続きが簡便になり、人材確保が有利になることが期待できます。
一方、デメリットは口座上限が100万円以下と制限されていることです。実質的には銀行口座との二重運用にせざるを得ないケースや、導入時にはシステム改修費用などがかかってしまうケースが挙げられます。
従業員側から見たメリットは、何といってもスマホ1つあれば「現金やクレジットカードを持ち歩く必要がなくなる」ことです。給与がデジタルマネーでスマホに入れば、チャージの手間もなく、素早いスマホ決済が可能になり、利便性が向上するのは間違いありません。
デメリットとしては「安心・便利」な仕組みがいまだ十分ではない点が挙げられます。現在、厚生労働省は資金移動業者を指定する際に8つの要件を設けていますが、制度開始の際にはトラブルがつきもので、「安心」して活用できるまでにはもう少し時間がかかるでしょう。また、現在使用している給与システムがデジタル払いに対応していない企業が多いため、誰もが便利さを享受できる環境が整っているわけではありません。
経済産業省が公表した「2022年のキャッシュレス決済比率」によると日本のキャッシュレス利用率は36.0%。国はその比率を2025年までに4割程度にするという目標を掲げており、その一策として給与のデジタル払いを解禁しました。
また、公正取引委員会が20年に公表した実態調査報告書では、給与をデジタルマネーで受け取ることを「検討する」とした労働者が40%と示されており、労働者側には一定のニーズがあることが分かります。一方、企業側については、顧問企業の現状をうかがう限り積極的な姿勢はあまり見られず、様子見の状況です。
企業側が積極的にならない限りは、給与のデジタル払いはすぐに普及するとはいい難いのが現状です。ですが、慢性的な人材不足の中、デジタル払いが採用難を解消するなど企業の要請に応える契機として認められれば、普及率が上がる可能性も期待できるのではないでしょうか。
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