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生成AI、司法試験で「合格水準」 東大発リーガルテックの技術力生成AIスタートアップの挑戦(2/3 ページ)

» 2023年09月26日 07時00分 公開
[濱川太一ITmedia]

Q. 顧客はどんな恩恵を受けられるのか

 従来、 Legalscapeやその他リサーチツールを通じた法務調査は、法律用語でキーワード検索を行い、さらに検索結果から適切な文献を取捨選択し、読むべき文献を絞り込み、その上で文献をじっくり閲覧しリサーチを行うといったものでした。

 つまり、従来型ツールによるリサーチは、法律用語や文献の著者名などに関する知識をある程度必要とする上、デジタル化が一定進んでいるとはいえ、文献を閲覧することを前提とした、まとまった時間を必要とするものでした。

 それに対し、Watson & Holmesは、例えば「株主総会の招集手続きについて」「株主総会決議に不備が認められる場合とその実例について教えてください」などといったユーザーによる入力に対し、まずWatsonがLegalscapeに収録されている文献から関連する書籍と記載を当社独自の自然言語処理技術により列挙します。その上で、生成AIを利用したHolmesは、Watsonの提示した文献を参照しながら質問に答え、その際には引用元の文献を明示するといった方向性のもとで文章を生成します。

リーガルスケープは生成AIを用いて質問形式で多数の文献からナレッジを引き出す新検索機能「Watson & Holmes」の提供を9月4日から始めた

 これにはいくつかポイントがあります。

 まず、Watson & Holmesではキーワードではなく文章 (自然言語)を用いて多数の文献からナレッジを引き出すことができます。さらに、入力されるべき文章は、必ずしも法務パーソンの実務経験が必要なものではありません。例えば、総務部における株主総会に関する質問や、人事部における労務に関する質問、経営企画部におけるM&Aに関する質問など、法律事務所や企業法務部の外で発生する調査にも適用が可能になっています。これにより、従来のユースケースを大幅に広げ「とりあえずWatson & Holmesで調べてみる」が実務に根付いていくものと考えています。

 Watson & Holmesの利用しているデータベースは、法律家が最前線で利用している信頼のおける書籍や、法令・ガイドラインといった国・当局から出る一次情報となっています。ユーザーは、法的論点で少し気になることが出てきた時に、まずはWatson & Holmesで検索し、1分足らずでおおよその概要をつかむことができるわけです。

ユーザーは気になる法的論点などをWatson & Holmesで検索し1分足らずで概要をつかむことができる

 また、現段階の生成AIには、それらしい嘘をついてしまうという問題(通称ハルシネーション)があり、正確な情報が求められる法務領域においては特に問題となります。Watson & Holmesでは、生成AIであるHolmesの回答は、Watsonが提示した信頼できる法律文献からの引用とセットで記述され、その対応関係まで分かりやすく表示されます。さらには、従来のLegalscapeの文献閲覧機能と組み合わせ、回答に対応した法律文献の詳細な記述もその場で確認することができます。これにより、ユーザーは生成AIの回答を参考としつつ概要をつかみ、その上で信頼できる法律文献の該当箇所をピンポイントで確認するという、全く新しい法務調査体験を可能にしています。

 当社は、こういった体験の提供を通じて、日本の企業運営における適法性やガバナンス・コンプライアンスの強化に貢献していきたいと考えています。

従来のリーガルリサーチとWatson & Holmesの違い

Q. 自社のサービスの強みは

 自然言語処理技術・生成AIをいち早く法務調査に応用することで既存のワークフローをアップデートし、これまで以上の時短効果とユーザー層の広がりを生み出した先行者となっていることは、当社の法務調査におけるリーディングカンパニーとしての立ち位置をより強固にするものです。

 当社共同創業者の八木田、城戸はいずれも東京大学大学院でコンピュータ科学を専攻した後、法律文献の構造化技術で特許を複数取得しており、当社の高い技術力と創業当初からの法情報に対する研究開発が実を結んだものと考えています。

 Watson & Holmesの次世代的な体験は、当社の自然言語処理に関する豊富な知見と、利用しているデータベースの質・量によって担保されています。

 当社は生成AI(Holmes)による出力を信頼できる法律文献(Watson)により検証可能にすることに成功していますが、これには独自の自然言語処理技術に加え、法律文献提供に協力いただいている出版社からのデジタル化に関する信任が不可欠です。

 当社は、法律出版は日本の法律実務を支えてきた非常に重要な役割の一つであると認識しており、法情報市場を高度なデジタルの力でアップデートし拡大することを約束してきました。Watson & Holmesは、まさにユーザーに法情報の新たな価値・ユースケースを提案し、裾野を広げる取り組みであり、当社の掲げる未来へと前進するとともに、各出版社からの信任をより強固にするものと考えています。

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