ドコモ、マネックスと資本業務提携 金融事業乗り出しに“出遅れ感”も?新NISA控え

» 2023年10月05日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 NTTドコモとマネックスグループ(G)は10月4日、資本業務提携を行うと発表した。ドコモは約500億円を投じ、中間持株会社を通じてマネックスGの祖業であるマネックス証券を連結子会社化する。時期は2024年1月4日を予定している。

左からドコモのスマートライフカンパニー長の前田義晃副社長、井伊基之社長。マネックスGの松本大会長、清明祐子社長CEO

 マネックス証券の名称は変更せず、社長には引き続き清明祐子氏が就く。マネックスの理念やブランドはそのままに、長期的な成長に向けてマネックスGとドコモが協同で支援していく体制だ。

ドコモが49%、マネックスGが51%を出資する中間持株会社、ドコモマネックスホールディングスを設立し、その完全子会社としてマネックス証券を置く(提供:マネックスグループ、以下同)

 ドコモの井伊基之社長は会見で「マネックスのサービスに、ドコモの顧客基盤を生かし、初めての方でも手軽で簡単な資産形成サービスを提供する。ドコモのオンラインメディアやドコモショップを通じて、最適な金融商品の提案も行っていきたい。将来、Web3や生成AIを用いて証券サービスをさらに拡大したい」と狙いを語った。

d払いと資産形成サービスの連携も ドコモの膨大な顧客基盤を生かす

 これにより、マネックス証券はドコモ経済圏に組み込まれることになる。

 ドコモの顧客基盤やポイントサービス、決済サービスを、マネックス証券のサービスと組み合わせる計画だ。まずはコード決済サービスである「d払い」アプリに、資産形成サービスを組み込んでいく。d払いは5199万ユーザーが利用しており、新NISAスタートを控え、潜在的な多くのユーザーにアプローチできるようになる。

 「d払いと資産形成サービスを連携させ、ユーザーにとって分かりにくいという負担を減らしていく」と、ドコモのスマートライフカンパニー長の前田義晃副社長は話した。

 dカードを使い、dポイントがたまる積立投資サービスを提供するほか、投資残高に応じたdポイントの進呈、dポイントによって金融商品を購入できるサービスも提供する考えだ。

資本業務提携で実現する資産形成サービスのアプリ画面イメージ

 マネックス証券は、これまでも自社のクレジットカード積立サービスや独自のポイント制度を提供してきた。今回の資本業務提携により、9480万契約を持つdポイント、発行枚数1680万枚のdカードユーザーが潜在的な顧客となる。ドコモショップでも投資セミナーを実施するなど、リアル接点も活用して顧客獲得を進められる点は大きい。

SBI証券、楽天証券に水を開けられていたマネックス証券にとって、ドコモとの資本業務提携は乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負だ。一気に口座数倍増を目指す

 マネックス証券の口座数は現在220万口座、預かり資産残高は7兆円だ。ドコモとの提携により、3年後には口座数500万、預かり資産残高15兆円と倍増を目指す。

プロダクトアウトから顧客ニーズのくみ上げへ

 データの活用も重要なテーマだ。金融サービスは供給者側が作成した物を提供するプロダクトアウト型が多いが、今回の提携により顧客のニーズに合わせたサービス作りへの転換も目指す。

 マネックスGの松本大会長は「ドコモとの提携により、お客さまが何を求めているのかを分析、データ解析して、それに合わせてサービスを提供する」と話した。ドコモが保有する9600万の会員データとマネックス証券のデータを分析し、一人一人に最適な商品をタイムリーに提案できる基盤を構築する。両者はこれを金融CRMと呼び、例えば「就職や転職、結婚などの人生の転機に、定期預金以外にもつみたてNISAの提案などを行う」(前田氏)という。

業務提携の概要。d払いアプリを通じた初心者層の獲得のほか、ドコモショップなどリアル接点も活用した金融教育、そしてSTO(セキュリティトークン)などの次世代金融商品の開発も行う

タイミングとしては出遅れ感も?

 今回、独立系ネット証券大手のマネックス証券を取り込むドコモ。これまでドコモは証券と銀行については他社との提携を中心に進めてきたが、ここに来て資本業務提携に踏み込んだ形だ。井伊社長は銀行についても「銀行機能の拡充は大きなテーマ。考えていきたい」としており、欠けていたピースを一気に埋めていく可能性もある。

 ただし競合となる携帯キャリアはいずれも傘下に金融事業を持ち、経済圏の拡大を進めている。楽天銀行、楽天証券、楽天カードを持つ楽天は、金融事業ではいずれもトップクラス。KDDIは、auじぶん銀行、auカブコム証券の資本比率を高め、au色を強めてきた。またPayPayを持つソフトバンクは、PayPay銀行、PayPay証券、PayPayカードと、傘下の金融事業会社を再編し、経済圏内でのシナジーを強めている。

 こうした競合に比すると、マネックス証券のドコモ経済圏との連携は出遅れ感も否めない。

 一般層の資産形成デビューに向けた起爆剤として期待されている新NISAは、24年1月からスタートする。顧客獲得競争はすでに激化しており、SBI証券は国内株式の取引手数料完全無料化を先導している状況だ。また新NISA口座における売買手数料は、マネックス証券も含め5大ネット証券全てが無料化することを発表している。

 今回の資本業務提携は、新NISAにおける獲得競争に辛うじて間に合った形だ。「新NISAによって、国も資産形成を推し進めている。社会の要請もある。いまがベストのタイミングだ」(松本氏)

筆者プロフィール:斎藤健二

金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。


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