NECが「資産運用」サービス開始 あえて金融に乗り出すワケ異例(2/3 ページ)

» 2023年10月16日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

高年収サラリーマンは「お金の相談先」がない

 もう一つの理由には、社員への福利厚生として資産運用アドバイスが求められてきているという背景がある。岸田文雄政権は新NISAで恒久非課税制度を決めたり、資産運用立国を標ぼうしたりと、国民の資産形成を後押しする施策を進めている。老後不安、インフレなども重なり、国や会社頼みではなく自分で資産を形成しなくてはならないという機運が高まっている状況だ。

 一方でNEC社内を見ると、資産形成に向けてお金の悩みを相談したいというニーズが顕在化していた。「社員にヒアリングする中で、保険は保険会社、証券は証券会社と、商品ごとにアドバイザーが変わってしまうのが面倒くさいという声があった。トータルで、お金に対する悩みを相談できるIFAが望ましいと判断した」(渡邊氏)

 本来、どんな金融商品にどれだけお金を配分するかというポートフォリオこそ、専門のアドバイザーに相談すべきものだ。しかし保険会社は保険だけを提案し、証券会社は証券だけを提案するというこれまでの枠組みでは、個別ごとでは最適な商品だとしても、全体としてはチグハグなものになりかねない。またファイナンシャルプランナー(FP)は、お金まわり全体の相談はできても、証券などの販売は行えない。IFAであれば、例えば企業向けDC(確定拠出年金)やiDeCoも含めて最適なポートフォリオを提案でき、実際に売買も対応できるところに強みがある。

 既存の金融機関の提案やアドバイスについて、顧客側の不信感がたまっているのも見逃せない。少し前の調査になるが、金融庁が19年に行った調査によると、金融機関のNPSスコア(顧客推奨度)は平均で▲56と低く、旅行や小売など他業種の平均値を軒並み下回った。知人に勧めたいかという問いに「勧めたい」と答えたのは6%に過ぎず「勧めたくない」とした人は62%に上った。「顧客本位ではなく業績重視の提案が多い」というのが最大の理由だ。

利用者の6割が、既存の金融事業者を「勧めたくない」と回答している(金融庁資料より)

 既存の金融機関は、業界全体で最適な商品ではなく自社の商品を提案せざるを得ない。その点で、複数の金融機関の商品を取り扱えるIFAに渡邊氏は期待する。「独立かつ中立的な立場、お客さまに一番近いアドバイザーという立場がこれから伸びていくのではないか」

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