一方、IFAのJAMにもNECと組む利点があった。これまで富裕層向け資産運用を強みとしていたJAMだが、次の顧客開拓先として期待しているのが高収入のビジネスパーソンだ。
「IFAの利点を合理的に説明すれば、富裕層の方のほとんどは当社のサービスを利用してもらえる。ただし富裕層は、既存金融機関からのリプレースでしかなく、社会的なインパクトはあまりない。資産形成の潜在層に当たりたいという思いはずっと持っていた」と、JAMの堀江智生社長は話す。
高収入のビジネスパーソンは、預貯金は豊富に持っていても運用したことがない人が非常に多い。しかし仕事が忙しく、自ら資産運用について調べて行動する人も少ない。加えて、上述のNPSスコアの調査結果しかり、対面の金融機関に相談にいくことにも抵抗を持っている。
こうした人たちに対し、大企業の福利厚生という形で資産形成のアドバイスを提供できれば、新たな顧客層を開拓できる。これがJAMがNECと組んだ理由だ。
では、なぜこれまで大企業の社員向けの資産形成サービスは提供されてこなかったのか? NECの渡邊氏は「企業の福利厚生として資産形成サービスを提供するのは、大企業向けでは国内初ではないか」と話す。
その理由は「もうからなかったから」(堀江氏)だ。大企業の社員とはいえ、運用可能な資金の多くは1000万円程度。JAMのようなIFAがこれまで主力としてきた富裕層は、1億円以上の資産を持っていることが多く、その10分の1だ。IFAに限らず、資産運用サービスの収益は運用額に比例する。一方で、運用に必要なアドバイスは金額には関係しない。運用額が10分の1でも、顧客にかける時間は10分の1にはならない。これがもうからない理由だ。
NECとJAMは、この問題に対しデジタルの力を活用して対応しようと考えている。「NECと協力して、デジタルの力でアドバイザーの生産性向上に取り組む」と堀江氏。買収したAvaloqの技術のほか、生成AI「NEC Generative AI Service」などを活用して金融サービスのDX化に取り組む考えだ。
新NISAの登場、また岸田文雄政権の「資産所得倍増計画」など、投資を巡る環境に追い風が吹いてきた。政府は長らく「貯蓄から投資へ」とうたってきたが、それがやっと実を結びつつある。NECのような異業種が資産形成アドバイスサービスに参入することで、このジャンルにさらなる広がりが期待できそうだ。
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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