「給与を上げろ」「残業を減らせ」「経費を減らせ」――日々現場と経営の板挟みで悩みが尽きない人事・総務担当者に向けて、リアルな疑問に答えます。回答者は、KKM法律事務所代表の倉重公太朗弁護士。
Q: 当社はコアな領域ということもあり、できれば「競合への転職」は避けてほしいと考えています。転職するという社員に「競合への転職はしないでくれ」とお願いしているのですが、これは法律違反になるのでしょうか?
答え:入社時に誓約書を取ろう
A: 「お願い」している時点で危ういですね。もう少しちゃんと準備しましょう。方法は3つあります。(1)入社時に誓約書を取る、(2)就業規則に記載する(3)退職時に誓約書を取るの3つです。このケースだと、退職時に追加で誓約書を書いてもらえるかお願いをするということでしょうが、後からお願いする場合は難しいですね。社員には「職業選択の自由」がありますので、事前に誓約書を用意していない場合は、お願いをしても断られることが多いでしょう。
しかし、必ずしも競合への転職を禁止できないわけではありません。就業規則で、職種や立場、期間などを限定し、競合への転職制限を課しているケースでは、認められることもあります。
ただし、一生転職不可などの要求はできません。半年や1年、関東圏で半年など、期間と地域を限定的に設定するケースが多いですね。
また、サービスの原価や利益率などを全て知っている人が競合に転職し、数値を全部知られた結果、自社を上回るようなサービスを作られたり、チーム単位で転職されたりと、明らかに会社が不利益を被ることもあります。この場合、会社側は損害賠償を求めることができます。職業選択の自由はあれど、会社側も損害が大きい場合は防ぐことが可能です。
とはいえ、事前から準備しておかないと、戦うといっても土俵にすら乗れません。社員が転職する段階になって急にお願いするのは効果が薄いと考えられるので、入社時の誓約書で準備しておきましょう。
慶應義塾大学経済学部卒。KKM法律事務所 代表弁護士。週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング2022」では人事・労務部門1位を獲得。
第一東京弁護士会 労働法制委員会副委員長・労働法基礎研究部会部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長、日本CSR普及協会理事を務める。著作は30冊を超えるが、最新作は『実務詳解 職業安定法』(弘文堂)。Amazonの著者ページはコチラ。
労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、人事労務担当者・社会保険労務士向けセミナーを多数開催している。
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