これまで日本をはじめアジア13か国、大企業からスタートアップまで多くのマーケターを見てきた中で、パフォーマンスが高いマーケターには一定の共通項があります。それはマーケティングの業務と強くリンクしています。
私一個人の偏見が入りすぎないように、周りのマーケターにも壁打ちしながらまとめてみました。
結論からいうと、マーケティング思考力は3つの要素に分解できます。
A:右脳と左脳のバランス:賢く、そしてバカになれるか
B:俯瞰(ふかん)と虫の目の両立:一人の顧客に向き合いながら、事業全体を見れるか
C:インパクトの可視化・想像力:目の前のこの施策がどれだけのインパクトを生じさせるのかを類推できるか
本当はリーダーシップなどもあるのですが、それは「マーケティング力」としてまた別でお話しします。このままだとぼんやりしているので、要素を一つずつ解説します。
A:右脳と左脳のバランス 賢く、そしてバカになれるか
ここで言いたい事は「正しい道筋の上で、おもろいことをする」ということです。なぜあえて、論理的思考力とクリエイティブ力とを分けずに、「バランス」としているかというと、これを1つの脳みそで行き来しながら考えることがとても重要だからです。
まず左脳的に「論理的に」考えるということは、マーケティングにおいては特に「当たり前のことを当たり前に考えられる力」だと解釈しています。
これは前回「フレームはいらない」という話をした背景でもあるのですが、マーケティングにおいては「あえて難しく考えない努力をする」ことが重要です。
新卒やマーケティングに初めて関わる部下を持った時はこの話をするようにしているのですが、(そしてたぶん結構滑っているのですが、)例えば恋愛において、誰かを好きになった時に、その好きになった人がどんな人で何が好きで、普段どんな行動をしているのか、一種のストーカー的思考ですが、絶対に考えます。
一方で、自分が好きになるくらい素敵な人であれば、多分その人のことを好きな人は他にも絶対いるでしょうし、その好きな人が他の異性と話していると「ムムッ!」と思うし、常に意識を配るでしょう。
じゃあどうすんの、となると、その人と付き合うために、ありとあらゆる作戦を練る。向井理くらいのイケメンで生まれてきたら話は別ですが、大概そんなことはないので、好きな人と付き合うために、自分自身の持っている武器を分析し、適用する――こうやってナチュラルに3C分析をしているのです。
Consumer:好きな人をめちゃ理解したい
Competitor:好きな人の周りにいるやつめちゃ嫌い、だから理解したい
Company:好きな人にもっと好きになってほしい
フレームを辞めた方がいいというのは、フレームから入るとただそれを整理するための業務になるので、「理解したい、好きになってほしい」という前向きな気持ちがなくなり、静的な「理解する、顧客に自社製品を好きにさせる」みたいな「ただの整理」になってしまうからです。
そんなんならもはやマーケティングなんて辞めてしまった方がいい。なぜなら、そんなフレームでまとめられた情報に全く価値がないし、何も生みださないからです。もっと、誰かを好きになったような、人生で初めて入った会社で、初めての製品を任せてもらえた時のようなわくわくした気持ちで、ナチュラルに考えたいですよね。
やや感情的だと思われるかもしれませんが、これまでやらされた仕事で、フレームから入ってしまった仕事はことごとく失敗しています。
もう昔の話ですが、前職ロレアル時代に、メイベリンニューヨークのアジアチームにいた時、アジアのアイシャドウビジネスを復興させるという任務を、海外着任Day1で言い渡されて、PJTリードしました。
でもリーダーとしては全然ダメ、あまり良い結果も出ませんでした。理由は、全然ワクワクしていなかったからです。
ただ頭の中にあったのはこのPJTを成功させて名前を売って、昇進することだけ。そんなときに限って、死ぬほど資料はフレームを使ってそれっぽく仕上げていました。
あんなマインドで仕事をするならもう仕事辞めた方がいいな、という強烈な反省が今でもあるから、noteを書くことにしたという背景があります。
話を戻しますが、ここまでの話で伝えたかったのは、「正しい道筋の上に自分たちは乗っかっているのか」ということです。
正しい直線上にいないとどれだけ投資をしても、リターンはありません。考えられる最大限まで、正しい道筋の上で進み切ることが大切です。
一方で、それだけで答えにたどり着けるわけではありません。だいたい論理的に、正しい道筋に乗っかって出した施策は滑ります。
なぜか? おもんないからです。ただただ顧客にとっては滑ってるからです。
だからこそ、論理的に左脳的に考えたあとに、「で、それおもろいん?」ということを同じ一つの脳みそで考えられることが、マーケティング思考力の要素の一つであるのです。
関西人の私が「おもろい・おもんない」と表現すると、ギャグ的な施策を打つことを推奨しているように聞こえるかもしれませんが、そういうわけではなく、「顧客にとって」面白いのかが重要です。
冒頭に挙げたTHE FIRST TAKEも、ただの一発取りをネタにして歌を歌っているだけ。申し訳ないですが、一般の視点で見れば面白くはないし、だったらLIVE映像のほうがいい、という人は多いと思います。
でもTHE FIRST TAKEの初期顧客はそういう人ではなくて、そのアーティストが本当に好きで、そのアーティストの、その瞬間にしか見せないリアルを見たいという気持ちがあります。
例えばLISAがTHE FIRST TAKEで歌う『炎』は、冒頭にこの激動だった、売れた一年も涙ながらに振り返るシーンがあって、だから良い。Def Techの『My Way』は、ラップはあんなにノリノリなのに、この曲が出て15年たったShenとMicroの二人の関係性をしおらしく振り返っているところから始めるので、いつもと全然違う。
どうでもいい人からすると「何が面白いか分からない」のだけれど、好きな人からすればめちゃめちゃ「おもろい」。大事なのは、論理的に思考された、正しい道筋の上で、顧客に刺さるおもろいことを、切り離さずに、一つの脳みそで考え抜いて、提供していくことです。
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