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色んな外資マーケターに聞いてみた 高給取りをかなえる「マーケティング思考力」って結局何なの?(3/4 ページ)

» 2023年11月07日 08時00分 公開
[小林幸平ITmedia]

B:俯瞰と虫の目の両立 一人の顧客に向き合いながら、世の中を見れるか

 これはいわゆる縦幅の能力です。

 マーケティングの真ん中にあるのは顧客であり、顧客不在のマーケティングは必ず失敗します。時々顧客を見ずにうまくいくビジネスもあるように見えます。しかし、恐らくは素晴らしい経営者がいつまでも心の底にお客さま視点を忘れていないので、「マーケティングなんてやってません」といいながらも伸びていくビジネスがあるように見えるのでしょう。

 この顧客に向き合う、というのは虫の目な仕事で、どれだけズームインできるかが重要です。上記に書いたように一種のストーカーレベルで向き合います。

 前職のロレアル時代でアジアチームにいたとき、普段はCOVID-19発生が市場に与える影響度を算定するという俯瞰度の高い話をしている傍ら、中国人のお客さまがコロナ禍で実際にどうやって化粧品ルーティンを変化させているかを、一人の顧客にインタビューしにいって、そのリアリティを知る――これらを同時にやっていました。これは、俯瞰と虫の目の両立の一例です。

 この片方が得意な人はまぁまぁいるのですが、この両方がスピード感を持って適切にできる人はなかなかいません。

 片方しか持ち合わないと、気付けば虫の目に寄り過ぎて、ビジネスインパクトの小さい要素をこねくり回していた、みたいなことが起きます。逆に俯瞰に走りすぎると、具体的なアクションに落ちない、競合と同じようなありきたりな示唆しか生まれません。

 もっと話したいことはあるのですが、これ以上話してもふわっとした話で終わってしまうので、最後の章で具体事例をもってお話します。

C:インパクトの可視化・想像力 施策のインパクトを類推できるか

 そんなこんなで施策を出していくのですが、一番といっていいくらい実は重要なのは、「できる限り具体的にその結果を事前に想像できるか?」です。

 この能力だけは分かりやすくその人材の市場価値にも転換できます。

 例えば、まだ市場にないサービスやプロダクトを世の中にローンチするとします。需要に応じて段階的スケールが可能なサービス設計であれば、特段問題ありません。ですが、需要予測の精度が求められる状況においては、事前にどこまで予測精度を高められるかという能力が必要です。

 一例として、消費財の業界は特にこれが重要で、小売企業様に販売していただく場合、基本欠品はNGです。それが理由で取り扱ってもらえなくなることはざらにあります。

 一方で、それを恐れて生産をかけ過ぎたが、売れなかった場合、全て在庫となり、倉庫を圧迫、かつ在庫保持で管理費がかかり、またBSを痛めます。また今の時代、簡単に廃棄処分できませんから、大変です。

 ちなみに私は一度、担当製品が売れると信じすぎて、死ぬほど生産・調達し、結果全然売れずに10年分の在庫を抱えるというミスを犯したことがあります。自ら小売店舗を回って、少しでも自分の製品が売れるように一日中売り子をしたり、店頭の販促物を付けて回ったりしました(いまとなっては血肉となり良い経験ですが、当時はかなりみんなに笑われました)。

 だからこそ、いまマーケティングとして実施する製品の発売や、一つのキャンペーンなど、何か手を打った時に、「市場からどれだけのリアクションをもらえるのか」をイメージできるかがとても重要です。冷静に市場理解や類似事例から、現実的なラインで着地を見極める必要があります。

 じゃあこれをどうやって鍛えるのか、ということですが、シンプルに「事前に予測することと、その結果のギャップを埋めていく」を繰り返すしかないと思っています。

 もちろん、業務においてこれを実践するケースが目の前にある人はいいのですが、なければ世の中の事例を使って自分で練習できます。これを繰り返すことでイメージと現実の差分を埋めていき、頭の中にケースを貯めていくことが重要です。

 ちなみに、僕はよくネットフリックスの新しいコンテンツが出てきたときに、これがどこまで伸びそうかを自分の中で予想して、当たった外れたを繰り返して精度をあげるというトレーニングをしています。結構面白くて、永遠にコンテンツが追加されるので、続けているとそこそこ精度が上がってきます。

 ただ内容として好みかとか、コンテンツとして面白そうかだけでなく、TikTokでショート動画として簡単にTikTokerが説明しやすそうだなとか、友達に「とりあえず観てみたら」と紹介しやすそうとか、10話あるなら、1〜2話で引きを作れているのか――などなど。

 例えば一つ予想をしておくと、ネトフリにある『地獄楽』というアニメは、コンテンツとしてはそこそこ面白い寄りではあると思うのですが、恐らく今は『推しの子』に持っていかれているので、多分タイミングが悪くて、このままあまり日の目を見ない気がしています……。

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