マーケティング・シンカ論

生成AIは「どこまで」コンタクトセンターの仕事を奪ったのか 人間がやるべき仕事は?(2/3 ページ)

» 2023年11月29日 08時00分 公開

Webサイト経由での相談件数760%増、生成AI実装のチャットボットの力

 実際に生成AIを実装したチャットボットの活用によりどのような成果が上がっているのか。「BOTCHAN AI」を活用した事例をご紹介します。

BOTCHAN AIのコミュニケーション事例

 弁護士法人東京スタートアップ法律事務所は、弁護士への本相談前の問い合わせ段階で「BOTCHAN AI」を活用しています。実際に相談者とチャットボットのやりとりを見てみると、40ストロークにも及ぶ会話をしていたり、弁護士への相談が決まり会話が終わった後にご丁寧に「ありがとうございました」と御礼を伝えていたりする相談者の事例がありました。

 生成AIに感情はないですが、文脈を理解できる生成AIだからこそ、相談者は裏側に人間がいるかのように感じているのだと思います。「相談者の役に立てるように全力でサポートさせていただきます」というスタンスや文章力を持ってリアルタイムにレスポンスすることで、Webサイト経由の相談件数が760%増加するなど最終的にユーザーの行動を変容できるようになりました。

AI相談から顧客の声を可視化

 またチャットボットと相談者の会話を分析したところ、離婚・慰謝料は39.2%と、想定以上に浮気や離婚、慰謝料問題で相談したい人が多いことが分かりました。この問題に相談者ニーズがあると分かれば、今後は広告の訴求を離婚や慰謝料に傾注したり、打ち手を変えたりしていくことも考えられるでしょう。

 チャットボットの会話データを分析することで、戦略や施策を検討できるようになります。生成AIによって、チャットボットの在り方が大きく変容していることが分かるでしょう。

台頭する生成AI、コールセンターの人間に残される仕事は?

 生成AIの進化によって人間の仕事が代替されていくように見えるかもしれませんが、私は人間がやるべきことはまだまだ多いと考えています。AIに代替されるというよりも、AIと人間がタッグを組んで仕事を進めていくのが一番強いでしょう。

 特に日本企業の強みは「おもてなし」と「品質管理」です。チャットボットにChatGPTを実装させるためには、3つの情報を学習させる必要があります。

 1つ目は自社情報です。例えば、公式Webサイトには商品紹介ページやFAQページがあり、商品をユーザーに正しく伝える機能を持っていますのでこれを学習させます。2つ目はナレッジ情報、つまり人間が交わることで蓄積される情報です。例えば、社内のマニュアルやドキュメント資料などが当てはまります。日本人は品質を管理するためのマニュアルを作り込む文化があるため、こうした資料の学習も欠かせません。3つ目は振る舞いに関する情報です。例えば、スタッフが顧客とどのようなコミュニケーションを実施しているのかという履歴などです。企業文化により接客の対応には差がありますが、履歴を学習させることで、その文脈を理解した対応ができるようになります。

AIにどんな情報を読み込ませるか?

 このように、企業文化やブランドをコミュニケーションに落とし込むためには、単純に多くのデータを学習させるだけではなく、従業員が日頃どのような振る舞いをしているのかの学習を通じて、企業の「らしさ」を学ばせる必要があります。その結果として、ブランドを体現し、顧客にとってのなめらかな接客体験や最高のおもてなしが実現します。つまり、AIによって人間が代替されるのではなく、一緒に顧客へ最高の体験を提供するパートナーだと考えていくべきなのです。

 また、顧客とチャットボットのやりとりを通じて、コミュニケーションデータが大量に蓄積されていきます。問い合わせ情報は定性情報であり、これまで定量情報への変換が難しく、扱いづらいものでした。しかし、ChatGPT4が登場し、自然言語処理の分野が進化したことで、簡易に定性情報を定量情報へ変換できるようになりました。どのような話題が多く取り扱われているのか、顧客の相談内容を定量的に把握できるようになったのです。これができると、今まで見逃していた顧客の悩みの解像度が上がったり、ニーズやインサイトの発見ができるようになったりします。

 コールセンターがチャットボットにより自動化され、時間的・金銭的コストが削減できる代わりに、問い合わせをする顧客の心理を理解し、改善につなげたり、商品をアップデートしたりしていくことが今後は重要になってきます。

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