新時代セールスの教科書

退職者の名刺から「1億円の商談」に 創業130年の酒造メーカーの意識改革(2/2 ページ)

» 2023年12月11日 08時00分 公開
[岡安太志ITmedia]
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 これまで、梅乃宿酒造の取引先はいわゆる「町の酒屋さん」が中心で、個々の取引額は大きくなかった。加えて取引先の高齢化も進んでいて、廃業などによる将来的な売り上げ減少も目に見えている状況だ。今後、持続的に売り上げを上げるためには大手量販店との取引を増やすことが必要不可欠だった。

 吉見課長は名刺管理ツールを導入した後、会社にある全ての名刺を名刺管理ツールに登録するよう促した。登録された名刺リストをたどっていくと、すでに退職している人が交換した名刺の中に、大手量販店のバイヤーにつながるものを発見した。調べてみると、名刺に書かれた人はまだ同じ量販店に在籍しており、さらにバイイングを担当する部門の次長という立場になっていた。

 退職者と名刺交換をした当時、どのような商談が行われ、どのような形で終了したか、詳細までは分からなかった。しかしこれを好機と見た吉見課長は名刺に書かれた連絡先に連絡したところ、無事アポイントをとることができた。

 実現した商談でその量販店の担当者に聞くと、当時展示会を通じて「あらごしシリーズ」を知り、興味を持ってはいたものの、特約店制度などの対応で折り合いがつかなかったという。

 一方で現在でもあらごしシリーズに興味を持っており、今でも取り扱いたいと思っていることも分かった。そこから商談を重ねた結果、無事、大手量販店チェーンとの売買契約が実現した。

 結果としてその大手量販店の29都道府県、351の店舗で「あらごしシリーズ」が並ぶことになり、年換算で1億円規模の売り上げ増加につながった。

成功事例を共有したところ、社内で「横展開できるのでは?」という声が上がったという

 この取引が決め手となり、22年の売上高はコロナ前の19年を上回る実績となった。この成功事例の社内での横展開も進めており、現在はさらに大きな規模の商談も進行中だと吉見課長は話す。

成功事例を生み出した3つの要因

 こうした成功事例を生み出せた背景について、吉見課長は3つの秘訣(ひけつ)があったと振り返る。1つ目は「意識づけ」、つまり名刺は会社の資産であることを全社員に訴え、名刺管理ツール導入の機運をつくったこと。2つ目は「約束事を守る」こと、社内の名刺を全て名刺管理ツールに踏力することを全従業員に徹底させたことを挙げた。最後の3つ目は「固執しない」ことだったと同氏は説明する。名刺管理ツールで人脈を見つけたときは、まずはアプローチをしてみることと、そして他の社員が結果が出たら、自分も同じやり方を試す(横展開させる)ことを意識したということだ。

 デジタルツールの導入は営業効率を高めることに一役買うことは間違いない。しかし、組織全体が成果を上げるレベルまで使いこなすには、こうした意識の醸成やルール作りもまた重要だ。

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