新時代セールスの教科書

「飛び込み営業」がついに死語に!? AIの台頭でくつがえる営業の常識(1/3 ページ)

» 2023年12月07日 08時00分 公開

 インターネットが普及する前、多くの営業担当は多数の訪問先を回って売り込みを行う「飛び込み営業」で新規顧客開拓をしていました。アポイントを取らずに会社や店舗、個人宅へ訪問し、場合によっては顧客と信頼関係を築け、商談が行える可能性があることから、現在でも飛び込み営業を行っている企業は少なくありません。

飛び込み営業 「飛び込み営業」は死語になる!?(ゲッティイメージズ)

 かつては主流であった飛び込み営業ですが、AIをはじめとする技術開発が進む今日では、時代遅れな方法になりつつあります。人手不足の課題感から多くの企業で「生産性の改善」が急務になっていることや、オンラインでの購買体験が一般化し、顧客側が企業に求める期待値も変化している背景から、このような非効率で不確実な営業手段が淘汰されはじめている実態があります。

 もしかしたら、AIの活用によって日本から飛び込み営業がなくなる日が来るかもしれない――。

 グーグルジャパンで営業統括部長、freeeで営業統括役員を歴任し、現在はMagic Momentの代表を務める村尾祐弥が解説します。

日本から「飛び込み営業」がなくなるかもしれない理由

 飛び込み営業がこれまで一般的だった理由は、そうしないと「顧客が見つからなかった」ためです。もし「自動的に顧客が生まれる」世界になれば、ニーズの分からない顧客に訪問する営業の在り方は大きく変わるかもしれません。

 実は既に「AIが顧客を見つけてくれる」世界観が、AI活用が先行する欧米では生まれています。まずは海外の先行事例から見ていきましょう。

 Harvard Business Reviewの調査結果から、営業にAIを活用した企業は50%以上のリード増、電話時間を60〜70%削減、コストを40〜60%削減したという結果が出ています。

 「AI-guided selling」呼ばれる、機械学習を用いて自社の顧客リストのうち次にどの顧客に当たるべきか、またその時にどんなアプローチ方法が良いのか、といった行動のレコメンドを継続的に予測分析する仕組みが企業で導入・活用されています。

 米国のセールステック企業の代表格であるOutreach社も、これらの機能を提供しています。Outreach社は、2021年6月に200億円の大型調達を実施した、現在は時価総額5000億円以上のユニコーン企業です。Outreach社が提供する「セールスエンゲージメント」と呼ばれる領域のプロダクトは、トップパフォーマーの知見や経験を再現したり、顧客へのアプローチを自動最適化したりすることで生産性を上げるセールステックテクノロジーです。

 日常的な作業の自動化は既に実現しています。例えば、マーケティングで獲得したリードを育成(ナーチャリング)する過程において、営業担当者に優先的に当たるべき次のアプローチ先や、そのターゲットに対して「顧客事例に関する資料を送付する」「2回目の追いかけメールを送信する」といった、次に行うアクションの推奨などがされるようになっています。

 ビジネスモデルや事業特性によりボリュームは異なりますが、事業活動には変数が少なく反復的に発生する「定型業務」と、状況に応じて個別の判断・対応を行う「非定型業務」が存在しています。現在、セールステック各社が提供しているのは、このうちの「定型業務」にあたる部分を、テンプレートやシナリオを組みながら自動化する機能です。

 このようにAIを活用して、データドリブンに次の当たり先を算出するようなサービスは複数存在しています。下記は営業活動の自動化機能を提供するセールステクノロジーの例です。

飛び込み営業

 米国では営業メンバーの活動だけでなく、マネジメント業務の自動化も実現する新技術も出ています。別記事で触れたため、ここでは簡単なご紹介にとどめますが、AIが豊富な営業データを読み込むことで、マネジャーにはパイプライン上の各案件における取引が頓挫する・解約されるといったリスク・成約のチャンスを検知し、報告するといった機能を備えます。

 ただし、これらの自動化機能や有力なセールステックが台頭している米国の市場を振り返ると、昨今いきなり「AI活用」「営業の自動化」が登場したわけではありません。営業部門を持つ各社がデータを整えるプロセスを経て、現在地にたどり着いているのです。

 第一段階としてCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理システム)やSFA(Sales Force Automation、営業支援システム)など、クラウド型の営業支援ツールが浸透。その結果、次の段階として各システム内に蓄積されたデータを生かそうとする動きが盛んになりました。

 マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスなど全部署で導入されたシステムの統合や、そのデータを用いて営業活動自体を効率化していくための取り組みが活発化する中、次なるフェーズとして「AIによる自動化」が注目されているのです。

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