最後の給与が「めっちゃ減った!」 退職時に給与から固定残業代を引かれた、これって違法?(1/2 ページ)

» 2024年01月04日 08時00分 公開
[木村政美ITmedia]

 あるビジネスパーソンから「退職前に1カ月有休を取ったら、給与から固定残業代分が引かれてしまい、手取り額が大幅に減ってしまった」という相談がありました。

 会社側の言い分は「有休の日は働いていないので、給料から固定残業代を引いてもいいでしょ?」とのこと。給与計算で固定残業代制度を導入している企業の場合、果たして上記の対応は正しいのでしょうか?

事例

 Aさん(30歳)は、大学卒業後都内にあるIT企業の甲社でシステムエンジニアとして勤務していますが、実家の家業を継ぐため11月末で退職することにしました。

 10月上旬。会社に退職の意向を伝えると、運よく後任者がすぐに決まったので、10月末日まで業務の引継ぎをし、11月に入ると残っていた年次有給休暇(以下、有休)を全部消化するため、出勤しなくなりました。

 12月25日。退職したAさんの元に甲社から11月分の給与明細書がメール添付で届き、給与が振り込まれました(甲社の給与計算は毎月末日締め、翌月25日払い)。早速ファイルを開いて給与明細書に書かれていた手取り額を見たAさんは驚きました。

 「えっ、何でいつもより給料がめっちゃ減ってるんだ!」

 慌てて前月分の給与明細書を取り出し見比べると、本来の基本給が33万円のところ、25万円に下がっていることが分かりました。

 速攻で会社に電話をしたAさん。給与計算を担当しているB総務課長(以下、B課長)に「11月分の給料がいつもより大幅に少ないんです。計算間違えてませんか?」と訴えました。B課長は「調べて折り返します」といったん電話を切り、10分後Aさんのスマホに連絡をしました。

B課長:Aさんの手取り額が下がったのは、11月末日付の退職なので、社会保険料が10月、11月の2カ月分控除されているからではないですか?

Aさん:それは以前総務から説明を受けたので承知してます。問題は自分の基本給が33万円から25万円に下がったことです。これはなぜですか?

B課長:ウチの会社の場合、システムエンジニアの基本給には、40時間分の固定残業代が含まれていることはご存じですよね?

Aさん:はい。

B課長:Aさんの基本給は33万円ですが、その中には固定残業代として8万円が含まれています。Aさんは11月中残っていた有休を消化するため、出勤日が1日もありませんでした。1カ月間全く残業をしていないのだから、会社が固定残業代を支払う必要がない。従って基本給からその分を引かせてもらいました。

Aさん:そんな……。ひと月まるまる有休を取ったら給料が下がるなんて、そんなのアリですか?

 B課長の説明を聞いたAさんは、すっかり落胆してしまいました。

退職者に固定残業代を引いて給与を支給 これって違法?

 固定残業代(「みなし残業代」や「定額残業代」ともいいます)とは、労働者の実際の残業時間数にかかわらず、一定の時間分の残業代を毎月の給与で支給する制度です。

 例えば毎月30時間の残業が発生すると想定した場合、基本給とは別に30時間に対して固定残業代を支給します。ただし、基本給の中に固定残業代を含めて支給する方法もあります。

(ゲッティイメージズ)

 退職前に1カ月有休を取る社員に、固定残業代を引いて給与を支給――このケースが違法か適法かを判断する前に、まずは次の2つの確認をします。

年次有給休暇(有休)中の賃金計算方法を確認する

 有休中の賃金は下記のいずれかの方法で計算するもので、計算方法は就業規則で定めます。

(ア)平均賃金(直近3カ月の給与支給額の合計をその合計暦日数で割る)

(イ)所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

  • 時間によって定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額 
  • 日によって定められた賃金については、その金額
  • 月によって定められた賃金については、その金額をその月の所定労働日数で除した金額

(ウ)健康保険法第3条の標準報酬日額(ただし、この場合は労使間の協定が必要)

 計算方法が簡単なため、(イ)の方法で計算している企業が多いと思われます。ここで退職時の有休消化での固定残業代の支払いが問題になるのは(イ)の方法で有休中の賃金計算をしている場合です。(ア)もしくは(ウ)の方法で計算している場合は問題になりません。

就業規則や雇用契約書の内容を確認すること

 固定残業代制度を運用する場合、就業規則や労働条件通知書(雇用契約書)にその旨を記載することと、労働者への説明が必要です。上記を踏まえると、退職前の有休を消化するため1カ月の間まったく出勤がない場合、給与から固定残業代分を控除するには、その旨の就業規則の定めがあることが条件で、会社が従業員から退職の話を受けた際、あらかじめ説明しておくことが大切です。

 逆に就業規則に定めがなければ、給与から固定残業代を減額する根拠がないので、従来通り固定残業代を含んだ額の給与支払いが必要でしょう。

 また仮に、就業規則に定めがあったとしても、給与を固定残業代込みで設定している場合、その全額がもともとの賃金と見なされるので、固定残業代の控除は労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。不利益変更と取られた場合、変更をするには労働者の合意が必要であり、その観点から見ても、給与から固定残業代を控除して支給するのは難しいと思われます。

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