ここまででお伝えした表現のコツは前提として、その他に必要とされる力は何か。私は、以下4つに集約できると考えます。
(1)思考力(質問をする力)
(2)知識(虚実を見極める力)
(3)対話力(コミュニケーション力)
(4)知覚力(外界を感じ取る力)
それぞれどんな力か、順番に見ていきましょう
グロービスで最も多くの方に受講いただいている「クリティカルシンキング」のクラスの教壇で、私が過去20年近く、引用している言葉があります。
“正しい質問をすれば必ず正しい答えが得られる”
日本人初の国連難民高等弁務官として、難民問題の解決に尽力された緒方貞子さんの言葉ですが、これは生成AIを使う上でも同様です。必ず正しい答えが得られるかはさておいて、少なくとも的外れな質問では期待される答えは得られないでしょう。
正しい質問や指示をするためには、質問や指示を生み出すための思考力と思考の材料となる知識(経験含む)が不可欠です。
生成AIは、正しくないこともあたかも真実のように答えることがよくあります。ハルシネーションという言葉で表現される、この現象。「生成AIはうそつき」のように言われることもありますが、生成AIの立場に立って考えれば「知らないことも一所懸命確率的に考えて予測して頑張っているのに」と涙目で訴えてきそうな気がします。せめて「自信がないんだけど」と言って答えてくれればいいのですが……。
ただ、利用する側からすると、これは大問題です。生成AIからの情報を適切に判断し活用するためには、アウトプットの怪しさに気付けるだけの知識、しかも断片的ではなく体系的な知識が不可欠です。
このことは、十分な知識が人間サイドにない状態で生成AIを使うことの危険性を示唆しています。社会人と異なり、例えば小学生など、体系的な知識が未成熟な状態で生成AIを使う場合は、どのように使うべきか議論の余地があるでしょう。
AIとのやりとりは一度きりで満足な答えが得られるとは限りません。生成AIとの対話を繰り返し、必要な結果を引き出すためにはAIとの「対話力」が重要です。質問を重ね、答えを精査する過程で、より精度の高い情報やアイデアを生成AIから引き出すことができます。
(1)思考力(質問をする力)で「よい質問のためには思考力が不可欠」とお伝えしましたが、実は、質問力アップのためには、言葉にはならないものを捉える「知覚力」も重要です。
知覚力とは、外界、つまり自分の外にある環境の情報を捉える力です。これは、新しいニュースをたくさん知っているということではありません。外界との関わりには、五感全てが関係します。
例えばお客さんのちょっとした表情の変化から「何かがおかしい」と感じ、アンケートではなかなか拾えないような、お客さん自身も気づいていないような不満の種に気付く――。このような知覚力、気付く力があるからこそ、ビジネスチャンスにつながるような問題意識が生じるのです。解決したい問題を持ってAIに問いかけ対話することで、AIはあなたにとって問題解決の糸口を探るためのさらに心強い相棒になっていくでしょう。
では、この知覚力を磨くには、どうすればいいのでしょうか。
まず、五感に代表される「センサー」を磨くことが大切です。興味のあることは“言葉”で考えすぎずに、まず、自身の体を使って実際にやってみましょう。そうすることで、感覚が鋭くなっていくはずです。
体を持たない言語モデルは、外界に自ら働きかけて情報を取ることはできません。人間に与えられた身体性を最大限に生かし、経験や実践を通して五感を鍛えること、体感知を磨くことが求められます。
もう一つ重要なのが、知識です。日本では7色で当たり前の虹の色が世界各国で6色や3色と異なるように、ものの見え方は、そもそもその人が持っている知識に大きく影響されます。「知識がなければ、見えるものも見えない」――つまり「知識があってこそ、知覚が働く」とも言えます。
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