クラウド化の効果は、想定以上に大きかった。ほぼ未経験の社員2人で900人を超える社員の年末調整を終わらせることができた。それまで本社で行っていた書類の仕分け作業や、データの手入力なども不要となり、残業時間も大きく減らすことができた。
「当初は900人を超える人数と聞くと不安があったが、ネット環境さえあればどこでも確認できるという利点に大きな手応えを感じた」
クラウドの年末調整業務を担当した宮崎幸江さんはこう話す。一緒に作業を進めた川野ゆかりさんも「当初は紙で確認できないことに不安もあったが、徐々に慣れていった」と振り返る。
一方で、クラウド化には少々困難も伴った。例えば80代などの高齢な社員の中にはPCやスマートフォンを持っておらず、クラウド年末調整の利用に必要となるメールアドレス登録ができない社員や、作業方法が分からない社員もいたという。
メールアドレスを持っていなかった社員には、システム担当社員が発行した社内共有のメールアドレスでログイン・回答してもらったほか、どうしてもやり方が分からない社員は事務員が代行するなど、臨機応変に対応してきたという。結果的に、クラウド化から3回目となる23年末の年末調整では、代行は1例にまで減ったという。
書類の出力や仕分けといった作業がなくなり、業務効率が大幅に改善されたことに加え、思いがけない副次的な効果も生まれた。それは、社内のコミュニケーション機会が増えたことだ。
同社の社員は、下はアルバイトの高校生から上は84歳の高齢者と、年齢層が幅広い。勤務日数も週1〜週5日とさまざま。従来は年末調整作業の依頼を周知しても、なかなか隅々まで情報が伝わりづらかった。クラウド化をきっかけに、作業の進め方を社員同士で確認し合いながら進めたり、事務担当者に気軽に質問をしたり、といった会話の機会が増えた。
年末調整のクラウド化で効果を実感した同社は、翌年には給与計算システムもクラウド化。紙ベースの給与明細も廃止した。「従来は全社員の給与明細を打ち出すのに、1日少しかけてコピーしていたのに、社員の多くは明細にあまり目を通していなかった(笑)こうした無駄を解消できて、とても楽になった」と宮崎さんは話す。
同社は今後、勤怠や人事管理システムもクラウド化し、給与から勤怠、人事管理まで全てクラウド上で一気通貫させたいと考えている。現状はそれぞれのシステムに、全く同じ社員情報を一つ一つ入力しているが、全てクラウド上で完結させれば、こうした入力作業の手間を省ける。同社の「業務のムダ改革」はこれからも続いていきそうだ。
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