もう少し視野を広げて、営業の組織構造や販売網、顧客のニーズの変化という観点からも考えてみましょう。
ビジネスモデルが変化するにつれて、従来は1人の営業担当が担っていた営業プロセスを、見込み客との関係性を築き商談を生む「インサイドセールス」と、商談から契約を担う「フィールドセールス」に役割を分けるなど、営業組織の構造も変化を遂げてきました。コロナ禍が追い風となり、現在はその営業手法が多様化し、ビデオ会議、オンラインチャット、電子商取引など、ハイブリッドチャネルを組み合わせて活動する営業組織が増えています。
21年のマッキンゼーの調査(※2)を見ると、B2B領域において買い手は、購買の際にオンラインを含み最大10個以上のチャネルを使用しています。これは5年間で倍増しており、23年現在にはさらに拡大していることも予想されます。
※2:The future of B2B sales is hybrid(McKinsey & Company 、2022/4/27)
オンラインチャネルでの営業活動の拡大により移動コスト分の営業活動の時間が伸び、顧客との関係構築や契約のクロージングに時間を使えるようになったことで、その場に居ること(=対面)の価値が薄れ、移動するコストに見合った評価を受けにくくなっています。先ほどの調査では、営業活動にデジタルを取り入れリモートセールスを行う営業担当は、従来の営業活動と比べ、同じ時間で4倍の顧客と接点をもち、最大50%に及ぶ収益を生み出せることが分かっています。
日本では人材不足の課題感を背景に、業務効率の改善が急務になっている企業が多く存在します。生産性改善を目的に、これまで外回り・ルート営業を行っていた部分をオンライン化し、テクノロジー活用による自動化を進める動きが活発化していく可能性は大いにあると考えられます。
営業活動におけるデジタルシフトが進んだ背景には、単純にこれまで顧客訪問などに費やしていた時間を有効活用できる企業側の事情はもちろん、買い手側が期待する顧客体験が変化していることも起因しています。
コロナ禍を経て、今後は購買において営業と話すことを好まない買い手が増えていく可能性が伺えます。Gartnerの調査(※3)では、買い手全体の43%、またB2B営業においてはミレニアル世代の半数以上が、営業担当が介在しない顧客体験を好むことが分かっています。
※3:The Future of Sales: Digital-First Sales Transformation Strategies(Gartner、2020)
また、マッキンゼーの調査(※2)では、21年時点で買い手は購買プロセス全体の3分の2以上をリモートでの対話、またはデジタルを通じたセルフサーブで自ら取捨選択できることを希望。このような顧客ニーズの変化に応えるためには売り手側が営業活動にデジタルを取り入れ、サービス提供体制を整える必要性が強調されています。
試用・無料利用をきっかけにプロダクトの価値に触れ、プロダクト内で顧客が自ら有料版にアップグレードしていく。このような営業担当が介在しない販売戦略「PLG」(Product Led Growth)で、米Zoomをはじめとする複数の企業が成功しているなど、既に営業がデジタルシフトする傾向が生まれています。顧客の購買体験に対する期待値が変化していることで、今後は顧客自身が商品・サービスの購入や契約について検討・判断する「セルフサーブ型」が一層進んでいくと考えられます。
これまでは顧客との関係構築を担う接点として根付いていた外回り・ルート営業ですが、顧客の購買体験におけるニーズが変化し、購買の意思決定の主戦場がデジタルシフトしていることから、これまで通りのやり方では立ち行かなくなることは疑いの余地がありません。「顧客体験」という観点からもプラスαの付加価値を創出するための変化が求められます。
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