新時代セールスの教科書

マネジャーはもう不要? 営業組織のAI活用で「人間の業務」はどう変わるか生成AIは味方? 未来の営業(3/3 ページ)

» 2024年02月27日 08時00分 公開
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「人の仕事」はなくなってしまうのか

 では、自動化が進むことで、「人の仕事」はなくなってしまうのでしょうか? 私の意見では、「人の役割が変化する」と考えています。それでは、AI時代の営業で、人はどのような役割が求められるようになるのか考えてみましょう。

テクノロジーの管理者・設計者が必要に

 「Revenue Intelligence」 のようなテクノロジーの組織実装が進み、AIを営業組織で活用することが当たり前になれば、AIが学習するためのデータを持っていることと、その有用性が企業の競争力を左右する重要なポイントになります。

 データを蓄積できるように組織全体でオペレーションをしっかりと作り込む動きはこれから一層強まり、将来的にはマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスなどの顧客接点ごと使用する個々のチャネルを管理する役割などが必要になるのではないかと予想しています。管理はもちろん、その設計者や運用者も欠かせません。

「人間的な介在価値」の発揮場所が変化

 テクノロジーによって営業活動の実行やオペレーションの改善自体が進められるようになれば、営業組織全体として「人間的な介在価値」を発揮する場所が変わっていく可能性があります。役割ごとに考察してみましょう。

マネジャー

 営業担当のマネジメントやコーチングに主軸が移っていくことが予想され、またオペレーションの整備を専門とする役割にシフトしていくことも考えられます。パイプライン上で進行する案件の総額だけでなく、営業プロセスも管掌範囲となり、運用と改善が求められるようになると考えられます。

営業担当

 日々の営業活動の主体はテクノロジーに代わっていき、営業担当が担う役割は顧客接点ごとの個々のチャネルを管理する役割や、通常の営業プロセスでは対処できない例外対応契約交渉など人間が介在した方が価値を発揮する部分を担うことになると考えられます。

 テクノロジーを管理するためには、デジタル領域における知見と営業プロセスへの理解が求められるため、「テクノロジーの管理」と「各プロセスにおける営業現場での業務」を異なる専門部隊が担う組織構造をもつ選択肢も生まれるでしょう。

「上司も部下もAI」は夢物語ではない

 すでにセールステック企業各社で自動化機能の開発が進み、市場が大きくなっていることから、日本でも遅かれ早かれ、現場の業務からマネジメントまで広域に渡り活用が進んでいくと考えられます。

 また、Gartnerの調査レポート(※)では、26年までにB2Bにおける買い手の半数が、AIを活用することで人間と対話できるように設計された「デジタルヒューマン」を介して購買を行うようになると予測しています。実際にAIが話している動画を見ると、説明がなければ生身の人間が話しているとも受け取れるレベルで人間らしい会話が実現しています。

※:Gartner identifies 7 technology disruptions that will impact sales throught 2027(Gartner、2022/10/10)

営業 (写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 日本では生産年齢人口の減少が慢性的な課題としてある中で、企業が人手不足に対する切り札として営業活動にAIセールスマンを起用する事例が出てくる可能性も十分考えられます。営業活動を補完する役回りとしてAIを活用し、「部下がAI」となる未来はありえるかもしれません。

 ただし、現実的には「仕事が機械に完全に代替される」というよりも、人間だからこそ付加価値を生むことができる領域は残り続け、人間の役割が変化するというのが筆者の見解です。それは、AIの特性としてデータ処理と分析に強みがある一方で、機械は社会性や共感性、創造性においては、人間には及ばないからです

 今後、人材不足が続くなかで、AIは営業担当の業務を補完する存在として役割を強めていくことが予想されます。営業活動のAI化が進む中での人の役割として、「AIに指示を出して仕事をマネジメントする」「人が入るべき部分で人に対して創造性を持って対応する」といった能力が求められるようになるはずです。

 本記事では、AIの活用や現在の業務の代替が現実的なものであることをご理解いただけたと思います。次の記事では、これから営業領域でのさらなる実用化が期待される最新テクノロジーと人間の役割の変化について解説します。

筆者プロフィール:村尾 祐弥 株式会社Magic Moment

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中央大学法学部卒業後、2社を経てGoogle Japan、freeeで営業部門の統括及び責任者として事業成長を牽引。2017年にMagic Momentを立ち上げ、2018年9月より経営を本格化。累計資金調達額20億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。LINEやUSEN、凸版印刷等、多くのエンタープライズ企業の営業変革を人・テクノロジー・オペレーションの全方向から支援。2021年にローンチした営業AI行動システム Magic Moment Playbook は、現在はエンタープライズ企業の生産性向上、LTV向上を非連続に実現している。


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