障害者雇用率、4月引き上げ 無理な採用が招く危険とは働き方の見取り図(1/4 ページ)

» 2024年02月29日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 会社が雇用しなければならない障害者の割合を意味する法定雇用率が、2024年4月から引き上げられます。「うれしい」「無理に働かせないで」「現場は大変」―――インターネット上で見られる反応はさまざまです。

 障害者雇用促進法では、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務が定められています。現在、43.5人以上雇用する民間企業の法定雇用率は2.3%。それが2.5%に引き上げられ、対象企業も40人以上へと拡大されます。

 26年には2.7%へと引き上げられる予定です。障害者採用に取り組む会社は増えていきそうですが、どこか引っかかる点もあります。徐々に引き上げられる法定雇用率を追い続けることで、障害者雇用は望ましい形で促進されるのでしょうか。 

法定雇用率を追い続けることで障害者雇用は望ましい形で促進されるのだろうか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


不足している障害者専用求人

 厚生労働省の「令和4年度障害者職業紹介状況等」によると、障害者の就職件数は順調に増加し、コロナ禍で一度落ち込みはしたものの、その後は再び上昇トレンドに入っています。直近22年度の就職件数は、10万2537人です。

障害者の就職件数は順調に増加している(厚労省「令和4年度障害者職業紹介状況等」より)

 しかしながら、就職件数を22年度の有効求職者数38万2115で割った比率は26.8%。障害がある求職者の7割以上が、22年度に就職できていなかったことになります。

 また、有効求職者数を22年度の障害者専用求人数24万486で割ると1.59。障害がある求職者およそ1.6人に対して、1件しか求人がない計算です。そもそも求人の数が不足していることが分かりますが、求職者側の実際の不足感はこれより遥かに大きいと考えられます。

現状は障害がある求職者およそ1.6人に対して1件しか求人がない(厚労省「令和4年度障害者職業紹介状況等」より)

 主な理由は2つ。まず、障害には身体・知的・精神などさまざまな種類があることです。身体障害がある人を想定した求人に精神障害がある人が応募しても、ミスマッチが生じてしまいます。その逆もしかりです。

 また、同じ身体障害であったとしても、足が不自由な人もいれば、目が見えづらかったり、耳が聞こえづらかったりする人もいます。知的障害や精神障害などでも同様に、障害の特性は個々に異なります。その点を踏まえただけでも、1.6人に1件の求人があるという見方は乱暴で、個々の障害者から見れば、実質的にはそれよりも遥かに少ない求人しかないことが分かります。

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