マーケティング・シンカ論

D2Cはオワコンなのか 多くのブランドが淘汰された背景に“闇深い”事情日本のマーケティング最前線(2/2 ページ)

» 2024年03月19日 09時00分 公開
[小林幸平ITmedia]
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D2Cビジネス急落の背景2:消費者が賢くなった

 オンラインで何か商品を購入する際、よく「初回限定50%OFF」のような割引を目にすると思う。これらの値引きプロモーションには、よく見ると注釈で「ただし、この値引きを適用した場合、その後1カ月ごとに配送され、3回までは購入いただきます」というように、次回以降の購入までセットになっているケースがほとんどだ。

 これはよくある手法で、1顧客におけるLTVを向上させるため、できる限り、1つでも多くリピートしてもらおうという戦略だ。

 これくらいであればまだいいのだが、D2Cにおいて一番多いのが解約トラブルだ。

 初回は値引きで安く購入し、買った側は「いつでもやめればいいや」と思っているかもしれないが、これでは甘い。

 D2C事業者はこの解約を阻止するため、多くの場合、ネット上では解約できないようにしているケースが多く、まず解約の仕方を探すのに購入者は一苦労する。よく「商品名 解約 方法」などの検索予測が出てくるのはこれが理由だ。

 そしてなんとか解約するための電話番号にたどり着き、電話してみたものの、なかなかつながらない、つながったとしてもコールセンターから説得されるなど、簡単に解約できないようになっている。

 一部のD2C事業者では、このコールセンターに対して解約阻止率をKPIとして持たせていることもあるほどだ。

コールセンターに対して解約阻止率をKPIとして持たせている企業も(写真はイメージ、出所:画像AC)

 こんな形である意味グレーゾーンになっていたこの解約問題だが、最近では購入者側が知恵をつけ、対策するようになってきた。そもそも購入に縛りがある商品は買われにくくなった。仮に購入したとしても、SNSなどで解約方法がシェアされているケースも多く、解約を阻止することが難しくなっている。

 結果、解約率は大幅に悪化。せっかく初回購入してもらっても、商品力がない限り、消費者はすぐに解約をすることで無駄な購入をしないようになってきたのだ。

D2Cビジネス急落の背景3:類似品販売が広がり、価格競争が激化

 最後に、D2C事業者が商品カテゴリーを拡張できなかったことに要因がある。

 今も昔も、D2Cビジネスといえば化粧品・健康食品がほとんどだ。最近で言えばペットフードも増えてきたが、それでもカテゴリーとして多くない。

 この理由は、これらのカテゴリーは比較的原価が安く生産でき、それに対して付加価値を乗せやすいため。つまり高額で販売できるからだ。

 それに従い、外部生産できるOEM会社も、これらのカテゴリーの開発を強化している。今は、1つのOEM会社が複数の違うブランドを生産している状況だ。

 過去10年以上にわたって、マーケティングの手法は進化してきたが、実は新しいカテゴリー自体はあまり開拓されていない。それに対して、新規参入プレーヤーは増えていく一方なので、当然だが同じカテゴリーに似たような商品が集中することになった。

 その結果、似たような商品が集まってしまい差別化が難しくなり、今や値引き合戦が繰り広げられている。初回は大幅値引きで購入してもらうことが通例で、事業者側は「初回は赤字」なんていうこともざらにある。

 せっかく初回購入してもらっても、2回目以降の価格が高くなると、購入者は「似たような商品がもっと安い価格で販売している!」と他ブランドに流れてしまうケースも多い。こうして、事業者がもうからない構造が生み出されてしまっている。

なぜ「D2C」はもうからなくなってしまったのか(出所:画像AC)

 まとめると、1顧客の獲得コストは高騰し続けるのに、競争激化から商品単価は下がり続け、また消費者が賢くなってきたことで、簡単には複数購入してもらえなくなってきた――ということだ。

 D2C事業者にとっては厳しい状況ではあるが、筆者は、今がまさに進化の時だと考えている。

 これまで作られてきた業界のスタンダードが時代の変遷の中で破壊され、それについていけないプレイヤーは淘汰される……。一見厳しいように聞こえるかもしれないが、これはどの市場においても起こり得ることである。

 D2Cの本来の良さは、小さい事業者や個人でも、その思いを込めた商品を、理解し、応援してくれる人たちに届けることができることだ。いま一度、その価値に立ち返るタイミングが来たのかもしれない。

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