マーケティング・シンカ論

成果を出すマーケターは「抽象化力」が高い 「具体の思考」から脱する学習法トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(2/2 ページ)

» 2024年03月27日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]
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マーケティング学習は「縦移動」がカギ

 前回の記事でもお伝えしましたが、アウトプットの目的は「インプットした(借り物の)知識を、実戦で使えるレベルに引き上げること」です。「実戦で使える知識」とは「Know(知っているだけの)知識」ではなく「Understand(分かっている)知識」です(私の造語です)。

 マーケティングの実戦は、全ての仕事・業務において同じものはひとつとしてありません。そんな中で「筋の良い戦略」を組み立てるためには、状況によって戦略を調整する応用力が必要です。その応用力こそが「Understand知識=(知っているだけでなく)分かっている」ことでした。

 「分かる」はお金では買えません。自身の頭で何回も、何十回も思考を巡らせないと手に入りません。その思考作業こそが抽象化です。

  • Aが成功している→Aを学ぶ→Aをまねる
  • Bが話題だ→Bを学ぶ→Bを実行する
  • Cが注目されている→Cを学ぶ→Cに取り組む

 上記は全て具体→具体の取り組みです。これを繰り返しているうちは、実戦力はほとんど上がりません。単に学んだことをコピペしているだけですから当然です。

 「でも学ばないよりはマシだろう?」という声があるかもしれませんが、むしろ逆だと私は考えます。学んだことを(抽象化せず)そのまま猿真似してうまくいくことなどほとんどありませんから、変にインプットすることで、失敗する確率を上げてしまっている可能性があるのです。

 ですから、学んだことは、必ず抽象化する癖をつけてください。

筆者作成

 本で学んだことをnoteに整理するのであれば、要点をそのまま書き出すのではなく、「ということはつまり?」を考えるのです。私は本を読んだ後、よくその本の論点や主張を1枚のチャートとしてまとめます。

 例えば、私は本を読みながら頭の中で(自身の知識や経験も含め)以下のように整理し、構造図に落とす作業を行うことがあります(20代の頃からこの作業を25年以上続けているので、もはや習慣になっています。嫌々ではなく、本を読んでいると自然とウズウズしてきて構造図に落としたくなるのです。もはや病気です(笑))。

  • 著者は、ABCという3つの環境変化から問題点Dが起こっていると考察している
  • 問題点Dを解決するための課題にはEとFがある
  • ただしFはアンコントローラブル要因のため、1社の努力では解決不能である
  • 解決すべき課題はEに絞られる
  • Eを解決する具体的取組にはPとQとRがある
  • それぞれのメリデメはこのマトリクスのように整理でき、X業界が取り組むならQが、Y業界ならRが最適である。その理由は……。ただし例外として……。

 こういった抽象化作業を行わない読書とアウトプットは、先に述べた通りコピペや猿真似による失敗リスクを増大させる可能性があるため、注意が必要です。

 また、いくら「具体」を学んでも、それらの「具体」はそれぞれが独立し、バラバラなまま(相互に接続されないまま)借り物の知識として脳内に散らかっているため、応用力が試される実戦の場では使い物になりません。

筆者作成

 上記作業によって自分だけの抽象を手に入れたら、実戦の場で再度具体に落とすのです。このとき、必ず自社の業界や商品が持つカテゴリー関与度、使える経営資源、競合環境などによってカスタマイズやチューニングをすることを忘れてはなりません。

アウトプットの真骨頂は「抽象」ステージにある

 マーケティング学習の目的は実戦力(=応用力)を上げることであり、学ぶために学ぶことでも、学んだ具体を具体のままアウトプットすることでもありません。実践に強いマーケターは、1000の具体を学び、100に抽象化し、1万の具体を導き出した後に最適なひとつを選び出せる人です。

 くどいですが、1000の具体を学んでも、抽象化をしない限り、1000の筋の良い具体を導き出すことはできません。実戦力を高める鍵は抽象化なのです。

 「できる」ためには「知っている」だけでなく、「分かって」いなければなりません。真に「分かっている」状態とは、抽象化ができている状態です。

 その世界の景色を見るためには、学んだことについて考え、書くしかありません。たくさんの本を読んでください(年間100冊が目安です)。読みながら考え、noteを書いてください(1記事3000字で、ペースは週イチが目安です)。慣れてきたらその3000字を1枚のチャートにしてください。そのチャートを画像にし、140文字の要約とともにXに投稿してください(毎日です)。

 noteやX投稿がたまってきたら、社内講師をやってください。社内に環境がないのなら、副業でもボランティアでも良いので社外の勉強会講師の機会を自ら作ってください(同じテーマで10回話したら一段上の景色が見えるはずです)。

 この一連の作業を3年間続ければ、あなたが見る景色はまったく別のものになります。暗号解読者がランダムな数字とアルファベットの中からひとつのメッセージを見つけ出すように、現場に散らばっている点と点が線としてつながり、全体構造の面が見えてくるはずです。それこそが、一流のマーケターが見ている景色(の入口)です。

 次回は、学習効率を加速させる実戦術(実務編)として、学んだこと(インプットとアウトプットしたこと)の実戦活用法を解説します。

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著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行

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1973年生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上のマーケティング支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)のほか、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。X(旧Twitter):@ikedanoriyuki

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