マーケティング・シンカ論

知識詰め込み型のマーケターは仕事ができない 「考える力」を鍛えるアウトプット方法トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(1/3 ページ)

» 2024年03月21日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]

連載:トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」

マーケティングはビジネスを成功に導く武器です。しかし、その領域は広範で専門性が高いことに加え、テクノロジーの進化や消費者ニーズの変化を常に反映させる必要があるため、簡単に扱えるようにはなりません。にもかかわらず、基本の学び方を理解せずに迷子になるマーケターが後を絶ちません。本連載では「マーケティングの学び方を学ぶ方法」を解説します。マーケティングの学習法を身に付けて初めて、マーケターのスタートラインに立つことができます。トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」開校です。

 直近2回では、学習効率を加速させるインプット術として「マーケティング学習における必読書44選」と「複利を生む読書術」について解説しました。

 インプットの次はアウトプットです。今回は、学習効率を加速させるアウトプット術の1つ目として、(1)アウトプットの目的と心構え、(2)「考える」ことと「書く」ことの重要性、(3)具体的な方法について解説します。

アウトプットの目的はアウトプットすることではない

 まず始めにアウトプットの目的から確認しておきましょう。アウトプットの目的は「アウトプットすること」ではありません。禅問答のようですが、ここが最も重要なポイントです。

 何のためにアウトプットをするのか。それは「インプットした(借り物の)知識を、実戦で使えるレベルに引き上げること」です。くどいですが、これが「アウトプットすることの目的」であり、「アウトプットすること自体」が目的ではないのです。

 アウトプットの方法はさまざまあります。学んだこと(本で読んだこと)をメモ帳に整理する、Xに感想を投稿する、noteに本の要約を投稿するなどは有効ですし、私も推奨します。しかし、そこでのアウトプットがいつしか手段の目的化をはじめ、アウトプットをしていることによる安心感を得る活動に成り下がってしまうと、「アウトプットしているのに、全然実戦力が上がらない!」と嘆くことになります。

 実戦力の向上につながらないアウトプットに意味はありません。慣れてくるとアウトプットは楽しくなります。だからこそ、常に目的を忘れることなく、正しいアウトプット道を極めてください。

知識はアウトプットしないと自分のものにならない

 前述した通り、アウトプットの目的は「インプットした(借り物の)知識を、実戦で使えるレベルに引き上げること」です。では「実戦で使える知識」とは何でしょうか。それは、「Know知識」ではなく「Understand知識」です(造語です)。

「分かる」「できる」は実践や経験の中でしか生まれない(画像:筆者作成)

 マーケティングの実戦は、全ての仕事・業務において同じものはひとつとしてありません。市況、PLC(商品ライフサイクル)、商品カテゴリー、市場ポジション(シェアの順位)、強み(競争優位性)、競合の動向、自社の顧客基盤、使える予算など、あらゆる与件が違います。そんな中で「筋の良い戦略」を組み立てるためには、状況によって戦略を調整する応用力が必要です。

 では、応用できる人とできない人の違いは何でしょうか。それが「分かっている」(=Understand知識を有している)か、「知っているだけ」(=Know知識しか有していない)かです。

 Know知識は、脳に仮置きされている借り物の知識に過ぎません。そのものズバリを聞かれば「そのまま」打ち返せますが、さまざまな角度から高速でやり取りされるディスカッションや質疑応答にはまるで使えません。これが「知識は知っていること自体に価値があるのではなく、使えてナンボ」と言われるゆえんです。

「知る」はお金で買えるが、「分かる」はお金では買えない

 では、なぜ「知っている」(Know知識人)は世に多数いる中で、「分かっている」(Understand知識人)は少ないのでしょうか。それは、「知る」はお金で買えるけれど、「分かる」はお金では買えないからです。

 Know知識は読書や有料セミナーへの参加などで増やせます。一方、いくらお金や時間を注ぎ込んでKnow知識を増やしても、実戦力は上がりません(上がらないどころか、インプット偏重の学びを大量に行うと実戦力を低下させる恐れすらあります。詳しくは後述)。

 Understand知識は、自身の頭で考えることでしか手に入りません。「考える」も「ちょっと考える」というレベルではなく、「熟考」する深さが必要です。

 うんうんと唸(うな)りながら、「ああでもない」「こうでもない」「あっちかな」「いやこっちだな」と考えているうちに、「あ! なるほどそういうことか!」と、気付きの神様が降りてくる。この工程を経て得られるのが(この工程を経ないと決して得ることができないのが)、Understand知識なのです。

 読むのも聴くのも一定の努力は必要ですが、ある意味で「受動的な学び」です。一方で、考えるためには自律的に、主体的に、能動的に問いを立て、自ら樹海や迷宮に飛び込み、めげずに何回も思考実験を重ねる覚悟とエネルギーが必要です。だからこそ、多くの人は心地の良い”インプット沼”に安住し、そこから抜け出すことができないのです。

行き過ぎたKnow知識人は仕事ができない

 あなたの周りに「あの人、知識はすごいんだけど、仕事できないよね」という人はいませんか? これが前述した「インプット偏重の学びを大量かつ継続的に行うことによる実戦力低下のパラドクス」です。

 なぜ、学べば学ぶほど実戦力が低下するのか。それは「実戦のために学んでいない(学ぶために学んでいる)」ことに加え、アウトプット(=自身の頭で考える)ことなく、借り物の知識だけで頭を満たし、その知識に振り回されているからです。

 戦略理論やマーケティング理論を学ぶと賢くなった気がします。これが根拠のない万能感に化け、下手をすると周囲の人を「こんなことも知らないの?」と見下すようになります。しかしその知識は自身のものではありません。借り物の知識がぎゅうぎゅうに詰まった器でしかないのです。

 新しい知識を大量かつ急速に学ぶと、知識に固執し支配されてしまいます。すると、見えるものや解釈を全て(半ば無理やりに)「学んだこと」に結び付け、「俺理論」を形成し始めます。実戦では「応用」が全てにもかかわらず、(学んだことを)「そのままやればうまくいく」と信じて疑いません。口から出る言葉もどこかの教科書に書いてあることばかり。横文字を多用し、簡単なことを難しく話し始める始末です。

 恥ずかしながら、私にもそんな時期がありました。借り物の知識はアウトプットをすることで粗熱をとらないと現場では使えません。調理した素材は熱が冷めるときに味が染み込むように、自身の頭で考え、アウトプットし、実戦しながら身体に染み込ませる必要があるのです。

 ポイントは、学んだことを脳内に「置く」のではなく、身体に染み込ませること。そのためには、自身の頭で徹底的に「考えること」が必要です。

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