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ソフトバンクが進める災害復興DX 能登半島地震で展開した「空・陸・水の支援」

» 2024年03月29日 08時00分 公開

 能登半島地震から2カ月以上たった今でも、1万5000戸以上で断水が続く。この状況が現地での被害の大きさを物語っている。

 震災復興にあたっては石川県創業のコマツや、アイリスオーヤマなど、直接支援に乗り出している企業もある。大手通信事業者ソフトバンクのグループも、通信インフラに限らない災害復興支援を地道に実施している。

 まず本業の通信インフラ面では2月27日、能登半島全域において仮復旧という形でソフトバンクの携帯通信網を復旧した。加えて、同社は「3G」という2世代前の通信サービスを1月31日で終了予定だったものの、地震発生を受けて4月15日まで延長。被害の大きい石川県限定で7月31日まで利用できるようにした。

 この他にも、自治体と連携した3つの取り組みを進めている。1つ目が、米スペースX社が提供する衛星通信サービス「スターリンク」との連携だ。ソフトバンクでは「Starlink Business」という名称で、法人向けにサービスを展開している。

 地震発生を受けて、ソフトバンクはスターリンクの受信機100台を被災地の教育施設や医療施設に設置した。通信料を無償で提供していて、利用者がWi-Fiにつなげる感覚で使用できるようにした。

 事業を推進する、ソフトバンクの第一事業統括部 事業企画部部長を務める橋詰洋樹さんは、こう説明する。

 「輪島市や穴水町の小中高に各複数台設置し、生徒や避難者が使用できるようにしています。学校では、スターリンクを使ってオンラインと対面のハイブリッドで授業を再開しています。被災地の生徒はそれぞれ被災の状況が異なり、全員が学校に来て対面で授業をするのは事実上、不可能なのです。そこでオンライン授業が役に立ちます。医療施設では、データ通信を必要とするDMAT(災害派遣医療チーム)が活動する拠点に、重点的に設置を進めました」

ソフトバンクの第一事業統括部事業企画部部長を務める橋詰洋樹さん

震災支援で見えた「シャワー」の重要性 ビジネスにつながるか?

 具体的には、学校の屋上などにスターリンクのアンテナを設置。そこから有線を屋内に引き込み、Wi-Fiルーターに接続して運用している。1台のWi-Fiルーターで2クラス分のオンライン授業を安定的に実施できるという。これ以外のWi-Fiルーターの設置箇所も通信量を見ることで、どこに設置したら利用されやすいかを可視化し、最適化しているという。

 「例えば避難所の玄関に設置するのは一番簡単ではあるのですが、利用のされやすさという観点で見ると異なります。被災地でWi-Fiルーターをどこに設置すればいいのかというところまで、今回の震災の対応から学べました。機材の設置から運用までどう対処すべきなのか。今回の地震に限らず今後に生かしていきたいと考えています」(橋詰さん)

 2つ目が、水道いらずの水循環装置「WOTA BOX」を通じた水インフラの支援だ。能登半島地震では地盤が大きく隆起したのもあり、水道管が大きな被害を受けている。被災地では2カ月以上経った今でも断水が続く地域もあり、水インフラの復旧は急務だ。断水から復旧したエリアでも濁水が続く事態にもなっていて、予断を許さない状況が続く。

WOTA BOX(プレスリリースより)

 水インフラが止まると、手洗いや入浴などができなくなることによって衛生環境が悪化する。それが長期間に及ぶと、感染症の拡大リスクや、被災者の心理的ストレスの増大にもつながり、ひいては災害関連死リスクの増加にもなり得るのが実情だ。

 一方で、入浴環境を整備するには、大量の水を確保することと、排水処理が必要になる。例えば飲用水を確保するだけであれば、1人1日分3リットルの水の確保で済み、排水もトイレの設備で対応可能だ。これがシャワーの場合、1人1日分で50リットルの水の確保と、排水設備が必要になるのだ。水の量は約17倍となり、かつ同量の排水も必要となるため、その整備には時間やコストがかかってしまう。

 実際に能登半島地震でも、自衛隊の入浴支援が展開できたのも地震発生から1週間後の1月8日だった 。被災地の中には、被災から4週間入浴できなかった福祉施設もあったという。

 こうした被災地の状況の中で、ソフトバンクでは、資本業務提携しているWOTAと協力し、同社の製品「WOTA BOX」を避難所に配備している。WOTA BOXは車で持ち運べる可搬型の装置で、優れた循環装置を備えている。その循環装置は最先端の自律制御技術によって、一度使った水の98%以上をその場で再生して循環利用できる。つまり、通常のシャワー2人分の水で100人分を賄うことが可能なのだ。フィルターでの水質処理にはAIを活用し、最低限の交換頻度で済むようにしている。

 循環型シャワーとして利用できるWOTA BOXの他、同じくWOTAの製品である手洗いスタンド「WOSH」も、被災地の衛生環境向上に貢献している。ソフトバンクやWOTAなどの複数企業により、循環型シャワー計100台、手洗いスタンド計200台が能登半島各地に設置。毎日数千人が使用しているという。

 具体的にどのような活用の仕方をしていたのか。ソフトバンクの次世代インフラ事業推推進部 事業戦略推進課の藤田瑞生課長はこう話す。

 「初動の段階では断水したエリアの避難所の入浴設備として展開していました。1月の後半になってくると、医療設備としてのニーズが非常に高まってきています。各地の首長と連携を取りながら、需要が少なくなった避難所から需要が高まっている医療機関に移設するなど最適配置を進めていて、今でも支援を続けています」

 藤田課長は実際に被災地を支援して、あらためてシャワーの重要性をひしひしと感じたと話す。

 「避難所から2〜3週間出ていない方もたくさんいらっしゃいました。シャワーを浴びたほとんどの方が弾けるような笑顔で出てくる姿を目の当たりにしました。シャワーという日常にあるものが、被災地においては心理的な部分でも大きな好影響を与えてくれるものだと思い、活動の意義深さを感じました」

ソフトバンクの次世代インフラ事業推推進部 事業戦略推進課の藤田瑞生課長

知られざる取り組みの背後にあったもの

 3つ目が、医療・行政MaaS(移動型サービス)の取り組みだ。ソフトバンクのグループ企業のMONET Technologiesが、移動における社会課題の解決や新たな価値創造を可能にする未来のMaaS事業に取り組んでいて、石川県では各種ライフラインの代わりになる機器などを搭載した防災車両を提供している。この車両は、移動型診療車としても活用でき、車両に搭載した機器でオンライン診療を提供する。

 被災直後でも太陽光パネルやバッテリーなどにより自前で電源を確保し、通信もスターリンクを活用した衛星通信が可能だ。さらにWOTAの製品も搭載することで、限られた水資源の有効活用もできる。医師によるオンライン診療によって応急処置や薬の処方もでき、例えば持病を抱える避難民を診療し、薬の継続処方などができる。

 この移動型サービスは、医療用途だけでなく行政用途にも活用可能で、他の災害事例では罹災証明の発行手続きにあたったこともある。2月19日から石川県輪島市で無償提供が進んでいる。

 こうした支援体制をソフトバンクはどのように構築していったのか。そこにはソフトバンク法人事業統括顧問を務める、前金沢市長の山野之義さんの知られざる取り組みがあった。

 「地震発生時は実家の金沢市にいました。その後、スターリンクとWOTA、医療MaaSの設置や配備をソフトバンクと、石川県の馳浩知事をはじめ各自治体の首長との連携を取りながら進めていった形です。WOTAについては馳知事、西垣淳子副知事には昨年のうちに効果を説明していましたから、1月2日の早朝に提案したときも、すぐに理解をしてくださり、スムーズに対応をしていただいて本当に良かったと思います」(山野さん)

 長期間の停電による通信インフラの喪失は重要な課題で、特にスターリンクの設置は喫緊の課題だったと振り返る。

 「自治体の職員からも、全員が利用できる環境を作ってほしいと要請を受けました。設置場所によってはうまくつながらないこともありました。私が被災地入りした1月7日の段階では、通信インフラはまさに『命の情報インフラ』だったと思います。かつて知事選で共に戦った馳知事の理解もあり、WOTAと医療MaaSの配備も早い段階で進みました」(山野さん)

ソフトバンク法人事業統括顧問の山野之義さん

 被災地支援の上では、LINEヤフーや、位置情報ビッグデータを扱う企業・Agoopといった、ソフトバンクのグループ企業が持つデータも積極的に活用した。

 「被災地支援計画を立てる上では、LINEヤフーの検索データを活用して、被災地の方たちがどんな情報を求めているのか、またAgoopのGPSデータを活用し、過去と現在の人流データを比較することで、どこで道が寸断されているのかを把握していきました」(山野さん)

 こうしたグループ企業で得られるデータを最大限に利活用し、災害復興のDXを進めていった。今回で得た災害の知見を今後どのように生かしていくのか。

 「各都道府県知事と連携しながら、今後どのようにしていくべきか、防災計画を立てていくべきだと思っています。特に県内に半島がある自治体では進めていくべき課題だと思います。全国の自治体においても、今回の経験が参考になってくると思っています」(山野さん)

 行政が主導する災害復興マニュアルは、過去の被災例を元に作られるため前例主義に陥りがちな部分がどうしてもある。一方、16年の熊本地震や18年の北海道胆振東部地震など、過去の大地震の当時にはなかった、復興に役立つ技術もスターリンクなどをはじめ多くある状況だ。こうした最新の技術を取り入れた被災地支援ができるのは、まさに民間主導の真骨頂だと言える。

 民間主導の被災地支援で災害復興のDXを進め、それを行政にもノウハウとして共有する。こうすることで、より社会全体で災害に強い国になっていけるはずだ。

現場の作業風景

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