「事故を起こさせない」保険の正体 事故発生率を18%低減する、あいおいニッセイの試み後編(3/3 ページ)

» 2024年04月01日 09時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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保険金支払も迅速化 15日短縮

 テレマティクス自動車保険のもう一つの効用が、事故発生時の迅速な対応だ。従来は事故当事者からの申告に基づいて状況を把握し、過失割合を決定して保険金を支払うのが一般的だったが、この作業には多大な時間と手間がかかっていた。

 「弊社のテレマティクス自動車保険では、GPSで取得した位置情報や、加速度センサーで検知した衝撃の大きさなどをAIで解析し、事故状況を自動で推定することが可能だ。これにより、お客さまへの過失割合のご説明がスムーズになり、対物賠償の保険金支払いまでの日数が約15日短縮された」

 こう語るのは、損害サービス業務部 損害サービススタイル変革グループの三原拓也担当課長だ。1件あたりの事故対応業務も平均10分削減されたといい、経費節減にもつながっている。三原氏は「迅速な保険金支払いはお客さま満足度の向上にも直結する。今後も業務効率化と品質向上の両立を追求する」と意気込む。

「ここ、危険!」 官民連携で安全なまちづくりを支援

 同社のデータ活用はさらに広がりを見せる。22年5月、官民が連携して地域の交通安全対策を推進する「交通安全EBPM支援サービス」を開始した。EBPM(Evidence Based Policy Making)とは「証拠に基づく政策立案」の略。事故多発地点の分析から、対策後の効果検証まで、交通事故に関するデータを提供して自治体の取り組みをサポートしている。

 「これまでの交通安全対策は、各自治体の経験や勘に頼る部分が大きく、その効果を定量的に把握できていなかった。EBPMを推進することで、より効果的な事故防止策を打ち出し、限られた予算でアウトカムを出していく。官民一体で真に安全・安心なまちづくりを実現したい」(デジタルビジネスデザイン部 プランニンググループ 朝隈善彦課長補佐)

 全国の事故危険地点をAIで自動抽出し、ハザードマップ化。信号や道路標識の設置・改善による事故削減効果をシミュレーションできるのも特長だ。

 23年10月に本格サービス化して以降、すでに複数の自治体が導入。24年度中には利用団体を二桁に伸ばす計画だ。将来的には建設コンサルティング会社など民間への提供も視野に入れている。

交通安全マップ

社会課題の解決に挑む保険業界の責務

 あいおいニッセイ同和損保の取り組みは、保険業界全体が直面する課題解決の一つの方向性を示唆している。家計の逼迫や少子高齢化の進展などにより、保険市場の成長は鈍化。従来型のビジネスモデルの限界が指摘される中、デジタル技術を活用した付加価値の創出と、事業を通じた社会貢献の両立が急務となっている。

 同社の挑戦は、その先駆けとなる事例だ。ただし、これはあくまでも1社の取り組みにすぎない。業界全体でこうした動きが広がり、持続可能な形で社会課題の解決につなげていくことが重要だ。同社の試みを一過性のブームで終わらせることなく、"保険の在り方"そのものを問い直すきっかけとしていく。そんな長期的な視点に立った議論と取り組みの積み重ねが、いま保険業界には求められている。

※取材対応者の部署名・肩書は取材当時のもの

筆者プロフィール:斎藤健二

金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。


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