「事故を起こさせない」保険の正体 事故発生率を18%低減する、あいおいニッセイの試み後編(1/3 ページ)

» 2024年04月01日 09時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 保険はもう「事故が起こった後のもの」ではない。事故を未然に防ぐ保険を提供する――という新たな潮流の中、業界をリードするプレイヤーとして注目を集めるのが、あいおいニッセイ同和損保だ。

 同社は「CSV×DX」を中期経営計画の柱に据え、未来志向の先進的な取り組みを加速させている。特に力を注ぐのがテレマティクス技術を活用した安全運転支援サービスと事故防止ソリューションの提供だ。

CSV×DXステートメント(公式Webサイト

 同社は「レガシーな『保険』の枠を超え、すべての人々が安心・安全に暮らせる社会の実現に貢献する」というミッションを掲げ、チャレンジを続けている。テレマティクス保険は、これまでの保険の常識をどう変えたのか。

事故が起こる前からサポート なぜ?

 同社が展開するテレマティクス自動車保険は、走行データや運転挙動・位置情報を中心としたデジタルデータを活用し、事故対応を効率化。速度や急ブレーキなどのデータを取得し、安全運転を行う人には保険料を割り引くなど、より合理的な保険料の設定を実現している。

 同社では走行データなどから安全運転の度合いをドライバーにフィードバックしており、事故を起こす前の、安全運転の啓もうを強化する。

テレマティクス自動車保険の概要(提供:あいおいニッセイ同和損保、以下同)

 2000年代初頭からテレマティクス技術に着目し、将来の自動運転やコネクティッドカーの普及を見据えて取り組みを進めてきた。最初の一歩は04年にトヨタ自動車と共同開発したペイ・アズ・ユー・ドライブモデルだ。オドメーター(積算走行距離計)のデータをもとに実走行距離に連動した保険料を算出するもので、テレマティクス自動車保険の先駆けとなった。

 その後も研究を重ね、15年にはテレマティクス分野で世界的な実績を持つ英国のInsure The Box社(ITB社)を買収。事故リスク分析のノウハウや、ドライバーの運転挙動を安全運転に導くノウハウなどを取り込み、本格的な事業展開への布石を打った。

 こうした取り組みが実を結び、18年4月、トヨタ自動車と共同開発した「タフ・つながるクルマの保険」の販売を開始。運転挙動をスコア化して保険料に反映させる、本格的なテレマティクス自動車保険を市場投入した。アラート機能や安全運転レポートなど、ドライバーの安全運転をサポートする独自のサービスも併せて提供している。

 その後も、20年にはドライブレコーダー連携型の「タフ・見守るクルマの保険プラス(ドラレコ型)」、21年にはスマートフォンと車載器を組み合わせた「タフ・見守るクルマの保険プラスS」、さらに24年1月にはスマートフォン単体で利用できる「タフ・見守るネクスト」と、対応デバイスを拡充。幅広い車種とユーザーニーズに対応できるラインアップを整えた。

搭載機械のイメージ(「タフ・見守るクルマの保険プラスS」)

 こうした積極展開の成果もあり、同社のテレマティクス自動車保険の契約件数は右肩上がりで伸長し、23年2月時点で186万台を突破。全体の契約件数約1000万台のうち、約20%がテレマティクス自動車保険という計算だ。中期的には300万契約の達成を目指す。

 ただ、この目標達成のためには、まだ課題もある。自動車保険部 テレマティクス開発グループの中村惇史課長補佐は「テレマティクス自動車保険の本質的価値をお客さまや代理店の皆さまにご理解いただくことが重要」と指摘する。

 アンケートによれば、追加の特約保険料を懸念する声や、位置情報の取得を気にする声も一定数ある。まだ「世のため人のためになる」というテレマティクス自動車保険のコンセプトが浸透しきれていないのが実情だ。

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