緑茶市場の競争が激化している。小売店が自社で企画・製造する、安価なPB(プライベートブランド)商品の大幅な成長を受け、NB(ナショナルブランド)緑茶ではかなり厳しい状況が続いている。
そんな中、メーカー各社は商品リニューアルを実施し、生き残るためにさまざまな工夫を凝らす。
昨今、気温上昇を背景に飲料全体で「ごくごく飲みやすい」味わいがトレンドになっている。コカ・コーラシステムの「綾鷹」はこのトレンドに注目し、うまみは残しつつも後味は軽やかな味わいにリニューアルした。また、容量も従来の525ミリリットルから650ミリリットルに増やしている。
一方サントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)の「伊右衛門」は、お茶の「濃さ」を追求した。伊右衛門本体史上最高レベルの濃さを実現し、茶葉の味わいをしっかり感じられる、うまみの強い中身を目指したという。
実は、伊右衛門と綾鷹はNB緑茶カテゴリーにおいて、伊藤園の「お〜いお茶」に次ぐ2位争いを長年繰り広げている(飲料総研の調査より)。
サントリーは「将来的にNB緑茶は少なくとも2番手までしか棚に残れなくなるかもしれません」と危機感を語る。2023年の販売実績では、飲料事業は好調にもかかわらず伊右衛門だけは前年比7%減と大きく落ちこむ結果に。伊右衛門は今回のリニューアルに“かけている”と言っても過言ではない。
しかしトレンドは「飲みやすい味わい」。時代の流れに逆行しているリニューアルのように感じるが、なぜ同社はとにかく「濃さ」にこだわったのか。SBFジャパン ブランドマーケティング本部の三宅克幸課長に話を聞いた。
ペットボトル緑茶は種類が豊富で、各社の企業努力もあり「どれもおいしい」状態だという。どれを選んでもさほど変わらない中で、消費者はより安いPB商品に流れているという。
22年10月出荷分から価格改定をし、伊右衛門は140円から160円(希望小売価格)に値上げ。PB商品との価格差がさらに開いたこのタイミングで、販売状況は苦しくなったという。
三宅さんは「お客さまが緑茶を選ぶ時の選択肢を、価格以外で提供できていなかったかもしれない」と振り返る。
「緑茶カテゴリーの中で、生き残っていくには、未来未来永劫(えいごう)愛される商品にならなくてはいけません。メーカー側が『どれも変わらない』と認めてしまえば、終わりだと考えました。
今回のリニューアルでは本質的な価値に立ち返り、もう一度味で勝負し、これまでと全く違うものを目指しました。飲料カテゴリー全体では飲みやすさがトレンドですが、これは言葉を換えれば薄くなっているということ。このトレンドは一度無視して、緑茶飲料として本当のおいしさを追い求めましたね」
トレンドの逆をいくリニューアル。当然社内からは「本当に大丈夫なのか」と不安視する声もあがった。
「経営層は最初半信半疑でしたが、『これまでと違うだけでなく、何にも負けないおいしい商品を作りますから』と、中身はまだできていない状況下でドキドキしながら大見えを切っていました。
今の商品を実際に試飲してもらい、経営層からは『確かにこれまでと違うし、うまい。こういうことだったのか』と納得してもらえましたね」
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