マーケティング・シンカ論

丸亀シェイクうどんの大ヒット 背景にある「あえてひと手間」が持つ効果とは……?令和の無駄学(2/2 ページ)

» 2024年04月22日 09時00分 公開
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3つの効果 無駄は「LTV向上」にも影響?

 ここまでいくつかの「あえてひと手間」の例を見てきましたが、ひと手間がもたらす効果は複数あります。

 まずはひと手間のプロセス自体に楽しさを感じられること。シェイクうどんは完成させるためのシェイクをする行為が、インスタントカメラは撮影から現像までの待ち時間が上質な時間を提供してくれます。

 2つ目は、スマホケースの例のように自分なりのクリエイティビティーやオリジナリティーを発揮できること。ついつい効率を追い求めがちな日常の中で自分の発想をもとに手を動かすことで、通常では得られないやりがいや刺激を得ることができます。

 3つ目は手間を乗り越えて自分だけのものが出来上がる達成感と、嫌みのない自己主張につながること。基本的には自己満足なので、不要な嫉妬やハレーションが起きにくいというのも、他者の目を気にしがちな現代人には大切なポイントといえそうです。

 最終的にはモノやサービスに対して愛着が生まれ、価値を強く感じるようになるというのも大きな効果。「あえてひと手間」は商品やサービスのLTV(Life Time Value)を高めてくれる可能性もあるのです。そう考えると「あえてひと手間」をいかに効果的に取り入れられるかは、商品やサービスを提供する側や企画者にとって一考の価値がありそうです。

日常に「あえてひと手間」を組み込むススメ

 「あえてひと手間」の機会を探る方法はいくつかありますが、私がおすすめしたいのは日常生活の中で「普段自分が何げなくやっていることをあえて3倍の時間をかけてやってみる」というもの。

 私の場合もともと一日あったことをスマートフォンの日記アプリに記録していたのですが、妻が「自分の文字で書いたほうが時間はかかるけれど、大事なことが定着する」と日記帳に書いているのをまねてみたところ、自分の文字で書くからなのかスマホでフリック入力するよりも時間がかかるからなのか、一日に起きたことをよりしっかりと思い出し、大切に記録できている感覚が持てることを発見しました。この発見をもとに、例えばスマホアプリでもフリック入力ではなく自分の文字で記録をする仕組みにアップデートすることで、それ以外の類似サービスとの差別化が図れるかもしれません。

 普段自分がやっていることに3倍の時間をかけてみるという作業自体が、徒労に終わる可能性もあります。しかし「タイパ(タイムパフォーマンス)」といわれる現代に、あえて普段しないことを積極的にしてみることこそ、今の現代人に必要な大いなる無駄ではないでしょうか? そしてそんな無駄こそが新しいブレークスルーにつながるかもしれません。

著者紹介:鈴木康司

株式会社博報堂 グローバルストラテジックプラニング局

戦略CD/ヒット習慣メーカーズ

2007年博報堂入社。

入社以来ストラテジックプラニング職として商品開発、ブランド戦略、コミュニケーション立案に携わる。現在は戦略CDとして戦略から戦術までを一貫してディレクション。海外在住経験を生かしグローバルブランドや企業の海外展開および日本参入プロジェクトにも多数参加。2017年より事業成長を通じて新しい習慣や文化を生み出す社内プロジェクト「ヒット習慣メーカーズ」に参画。「カイタイ新書」「本能スイッチ」を出版。

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