マーケティング・シンカ論

丸亀シェイクうどんの大ヒット 背景にある「あえてひと手間」が持つ効果とは……?令和の無駄学(1/2 ページ)

» 2024年04月22日 09時00分 公開

連載:令和の無駄学〜僕らにはもっと無駄が必要だ〜

合理的で効率化が求められる社会。どんどん便利になる社会。何不自由なく生きられる社会。しかし、それと逆行するように人々の幸福度は下がっている。

もっと豊かで人間らしい暮らしを得るには、時間的な余白や、一見どうでもいいような機能、生活必需品ではないものの購入など、いうなれば「無駄」が必要なのである。無駄こそ心にゆとりをもたらし、無駄こそ周囲へのやさしさにつながる。真の豊かさを求める上での最強の武器である「無駄」について、社会を解剖していく。

 世の中が加速度的に便利になる中、効率は良くなったものの“面白さ”が失われてしまった……。だからこそ、今の時代には「無駄」が必要なのである!

 そんな考えのもと鼻息荒くはじまった本コラム。一言で「無駄」と言っても、本当に無駄でどうしようもないものから、人生を豊かにしてくれるものまで実にさまざま。第2回からは、世の中にある仕事にも生かせそうな「無駄」について考えていきたいと思います。

 今回のテーマは「あえてひと手間」。世の中には、「あえてひと手間」加えることでヒットした商品がたくさんあります。

「あえてひと手間」でヒットしたたくさんの商品

 まずは私がここ数年楽しんでいる「無駄」からご紹介させてください。私は今年2月に40代に突入した、世間ではおじさんと呼ばれる年齢ですが、ここ数年ファッションに関して少し意識が変わってきました。

 今までは毎シーズントレンドの服を買ってはまた買い替えてを繰り返してきたのですが、最近は流行に左右されないファッションや時計を長く楽しみたいと思うようになりました。その中で4年ほど前からハマりだしたのがデニム・ジーンズの育成。デニムを育てて自分だけの「アジ」を出すことに楽しみを見いだしています。

 新品の生デニムを買ってきてから手洗いをしてのりを落とし、自分に最適なサイズになるように計算してコインランドリーで乾燥。乾燥後は必要に応じて縮んだデニムの裾上げを行うことで、自分にピタリと合うサイズに調整します。その後は自分の体に合ったメリハリのあるシワを付けるために再度のり付けを行い、ゴワゴワな履き心地を我慢して何年も履き続けることで、世界に一本だけの自分のデニムを育てていく……。

 いかがでしょうか? 興味のない方からすると「なぜそんな無駄な手間をかけるのだろう?」と思われたかもしれません。しかし、他人から見たら大きな無駄を積み重ねて育てたデニムこそ、毎シーズン新しいものを買うことが前提のファストファッションのデニムやもともとダメージ加工がされているものでは味わうことができない満足感を与えてくれるのです。

 この一見無駄な時間や手間をかける行為を「あえてひと手間」と呼び、考察していこうと思います。

 あえてひと手間を加えたことでヒットした商品やサービスは数多くあります。あえて急須でお茶をいれることでリラックスした気持ちを求める若者がいるというのは分かりやすい例。普段はなかなかやらないけれど、たまには「あえてひと手間」をかけることでより良質な時間を過ごすようです。

 2023年、うどん屋チェーン丸亀製麺が販売した「食べる前にシェイクする」テークアウトうどんがヒットしました。うどんをお手軽にテークアウトできる商品はもともとあったはずですが、この商品は「シェイクをする」という手間を加えたこともヒットの一因になったのではないかと思います。

 SNSを見ても「シェイクをするのが楽しい」「フリフリするのが楽しい」などの声が多くあり、作る過程の手間を楽しんでいる様子が伺えます。実際にシェイクをすることでうどんと具材が混ざり、よりおいしくなるという効果もあるようで、「楽しさ」と「おいしくなる」という効果を両立させた「あえてひと手間」になっています。

「食べる前にシェイクする」テークアウトうどんがヒットした(丸亀製麺提供)

 他にも、昨今はスマートフォンのカメラでいつでもどこでも気軽に写真を撮れることが当たり前になりました。それと逆行して、数年前からインスタントカメラが若者を中心に人気を集めています。

 すぐに撮影した写真を確認できるスマホとは異なり、現像をする手間が必要ですが、どんな写真が出来上がるか分からない緊張感とワクワク感が魅力となっているようです。

 さらに当社のZ世代の新人によると、最近は10年以上前の古いデジカメで写真を撮ることも流行っているそう。アスペクト比も通常のスマホとは異なる横型であることやデータ移行の手間があることが現代のテクノロジーから離れている「エモさ」を感じられ、少しとがっていてかっこいいという気持ちを引き立てるようです。また、デジカメの中でも解像度が低く写りが荒くなったもののほうがより重宝されるとのことで、手間や不便さがある方が楽しさを増幅するという点も興味深いです。

現像をする手間が必要なのに、インスタントカメラが人気(画像ACより)

 同じくZ世代に「あえてひと手間」で思い付くものを聞いたところ、「スマホケースのアレンジ」が真っ先に出てきました。背面が透明なスマホケースを買い、自分の好きな写真やステッカーを挟む文化で、推しや自分が撮った思い出の写真(これ自体がひと手間ですね)などを入れることでアレンジしています。既製品のスマホケースは星の数ほどありますが、自分の好きなものの組み合わせを考え、ステッカーなどの素材を集めて配置するという「あえてひと手間」。スマホの背面をキャンバスに自分自身を表現することで、嫌みのない範囲で自己主張ができることが、変に目立ちたくないけど少しの主張はしたいと考えるZ世代にとって人気の理由ということです。

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