提報は、社員の小さな気付きを経営に生かす重要な仕組みだ。例えばこんな事例がある。
ある時、九州にいる社員から「プリンター製品の競合他社が撤退するかもしれない」という提報が提出された。
当時はまだ信憑(しんぴょう)性が低く、本社のある関東圏ではそのような動きは見られなかったので、経営層は「問題ない」と判断していた。しかしその後、西日本、東日本の社員から次々に同様の提報が増えていったという。こうした提報の流れを見て危機感を覚えた社長が、直に事実確認をすると、情報が事実だったことが分かった。提報がなければ判断が遅れていたかもしれない。こうした大きな影響を及ぼしたケースは稀(まれ)だが、小さな情報が大きな経営判断に影響を及ぼした例であろう。
また、提報は経営層のメッセージが社員に正しく伝わっているかを確認する手段としても、重要な役割を果たしているという。
全社会議などで社長が従業員に向けてメッセージを送ったとき、その内容が意図した通りに伝わっているかを提報で確認できる。
渡辺氏は「この制度で利益が1億円アップすることはないが、小さな変化の繰り返しによって大きなイノベーションにつなげられる」と力を込める。こうした文化が根付くことによって安定した経営基盤を築けていることが、同社の大きな強みとなっているようだ。
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