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建築業界「休めない、人手が足りない」 2024年問題を“さらなる苦境”にしないためには働き方の「今」を知る(4/4 ページ)

» 2024年05月09日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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具体的な「2つの手段」

 その手段の一つは過酷な条件を強要するあまり、結果的に劣悪な労働環境が生まれる元凶となってしまう発注者への「ペナルティ強化」だ。運送業でも建設業でも、発注者側が適切な納期や業務量を考慮せず、無理なスケジュール、無理な業務量を強要することで下請け企業がシワ寄せを受ける構造になっているケースが多い。

 例えば運送業であれば、荷主が過積載となることを認識しながら運送を要求した場合、道路交通法に基づき罰則を受ける。これと同様に、運送業者に法定時間を上回る残業を強いるようなスケジュールを要求したり、時間短縮を要求するのに高速代を負担しなかったりする荷主に対してペナルティをつけることも一考に値しよう。

 同じように、建設業の場合は、建築の確認申請の中に適正工期の審査を導入するなどの監視体制強化が必要ではないだろうか。

 もう一つは「適正値上げ」を国民全体の合意として歓迎するムードを醸成することだ。法律改正によって各業界の労働環境が改善されることは望ましい反面、労働時間減少が収入源に直結することがネガティブ要因ともなり得る。「働きやすくなったが給料は少ない」となると業界自体の魅力もなくなり、さらなる人手不足へと負のスパイラルが発生することにもなりかねない。

画像提供:ゲッティイメージズ

 さらには、残業が厳格に管理されている以上、稼ぎたい人は副業やかけ持ちを始め、結局長時間労働が温存されるばかりか、疲労や集中力低下によって事故の危険性も高まるリスクがある。そうなってはまさに本末転倒である。

 長時間労働とされる業種の仕事は、好き好んで長時間労働しているわけではなく、そのとき求められている仕事をきちんとこなそうとした結果、長時間労働になってしまっているのだ。長時間労働抑制のためには、業務量を減らすか、人を増やすかしかない。

 業務量自体は簡単に減らない以上、人を増やすためには人件費が必要であるから、その分が価格転嫁されてしかるべきなのだ。

 残業規制とセットで、発注主には発注金額の底上げと、雇用主には賃上げ、そして全業界で一斉に賃上げと連動した値上げをするくらいの対策が必要だ。

 そもそもわが国では、低価格店であっても高級店並みの接客サービスが当たり前のように行われているし、本来追加料金を徴収しておかしくない配達時間指定や再配達が無料で提供されている。

 われわれは高品質低価格サービスにどっぷり浸かり、悪い意味で慣れきってしまっているのだ。また、シーズン真っ最中の観光地やアミューズメントパークで発生する大行列と大混雑で疲弊したり、人気の新商品に予約注文が殺到して入手できるのが数カ月〜数年待ちになり、転売商品に手を出さざるを得なかったりするのも同じような状況といえる。

 単純に考えれば、いずれも「安すぎる」からこそ買い手が殺到するのだ。これらも需要に合わせて柔軟に値上げすれば、待ち時間のイライラ、在庫枯渇による機会損失、本来不要な転売ヤーの増加など、多くの問題を解消することができるはずだ。

 これまではマスコミも、少々の値上げであってもまるで「悪いこと」かのように報道してきたし、われわれ消費者も「値上げするならもう買わない」とばかり、価格上昇に対して強い拒否感を抱いてきた。

 しかし、それでは低価格が維持できるメリットがある反面、「誰かの給料が上がらないまま」「誰かの労働環境が悪いまま」で据え置かれることと同義でもある。

 「『今だけ、自分だけが良ければよい』という考えはよくない」という風潮がようやく生まれ始めてきた今こそ、国と企業が連携し、適正な値上げを実施し、皆が働いた分だけの充分な給料を得られる社会にしていきたい。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

 

著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。

11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。


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