「つながらない権利」が法制化された当時のフランス以上に、今の日本では「つながっている」人が多いのではないだろうか。
2023年9月に連合が行った調査によると、雇用者のうち72.4%が「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」、44.2%が「勤務時間外に取引先から業務上の連絡がくることがある」と回答している。ほぼ毎日くるという人はそれぞれ10.4%、6.2%だ。
この質問はあくまで「連絡がくるかどうか」について聞いているので、それに対応しているかどうかは分からない。
しかし、62.2%の人は「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくるとストレスを感じる」と回答しており、60.7%は「その内容を確認しないと気になってストレスを感じる」と回答していることから、連絡自体をやめてほしいと考えている人も多そうだ。
中には、業務時間外の連絡が気にならない人もいる。例えば「いま対応する義務はない」「週明けにやれば十分」とオンオフの線引きがきっちりできていて、仕事の上でもそれが許されるようなタイプの人。逆に「仕事を円滑に進めるためならいいじゃないか」と、積極的に対応するタイプの人もいるだろう(このタイプは、時間外の連絡をする側になっている可能性も高い)。
一番ストレスがたまるのは、どっちつかずで葛藤しているタイプの人だ、という研究結果がある。
近畿大学の本岡寛子教授らの研究では、20〜60代の男女93人を、勤務時間外の連絡に対する意識によって3グループに分け、仕事のストレスの度合いなどを調査している(参考「勤務時間外の連絡に対する意識が心理的ディタッチメントと職業性ストレスに与える影響」)。
「次に会った時に話せば十分だと思う」や「応じるのは出勤してからでも間に合うだろうと思う」など、返信を急がず保留する意識が高く、応じないと業務が遅れたり相手に迷惑を掛けるという意識、応じないと自分の評価が下がるのではないかという意識が低い。
返信を保留する意識がやや低く、応じないと業務が遅れたり迷惑を掛けるという意識、自分の評価が下がるという意識がやや高い。
返信を保留する意識が非常に低く、応じないと業務が遅れたり迷惑を掛けるという意識、自分の評価が下がるという意識が非常に高い。
この3グループを比較すると、「必要はない」と割り切って返信に応じないでいられる1番目のグループに比べ、どっちつかずで葛藤している2番目のグループにおいて、優位に疲労感や身体愁訴(しゅうそ)の値が高かった。
論文では「『葛藤型』は、周りとの調和を乱すことや 迷惑がかかることを懸念しつつも連絡に応じないタイプであり、常に仕事から離れるのが困難なタイプ」と説明されている。また、家事、育児、介護など仕事以外の忙しさによって、他のタイプよりも高い疲労感や身体愁訴を示しているのではないかと考察されている。
なお、3番目のグループの数値は他グループと有意な差がない。しかし仕事のストレス反応としてはポジティブなものである「活気」の得点が葛藤型より高い傾向があり、「勤務時間外であったとしても、連絡に応じることによって用事を手放すことができるタイプが一部混在していると推測できる」とある。
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