研究結果から分かるのは、そもそも業務時間外の連絡を気にせず放っておける人もいれば、気になる場合にも、対応してスッキリできる人、嫌々ながら仕方なく対応する人、他の事情で対応できない人がいるということだ。
ここからは筆者の推測だが、「気になるけど対応できない」人たちは、周囲からは「気にせず放っておける」タイプと見なされていることもありそうだ。「急を要するから連絡してるのに、空気読まないよね」とか、最近話題の「子持ち様」だから甘えているなどといわれることを恐れ、肩身の狭い思いをしている人たちも多いのではないだろうか。
そのような可能性も考えると、やはり業務時間外の連絡は抑制すべきだと思う。「つながらない権利」の法制化を待つまでもなく、まずは職場でのルール作りが望まれる。
「でも、対応しないと顧客に迷惑を掛ける」「仕事が回らない」といった事情をどうするか。筆者としては次の3つを提案したい。
どんなことが業務時間外にやりとりされているのかを洗い出し、「これは業務時間内にやればよい」「これは夜や休日でも連絡が必要だね」ということを分ける。
前者については業務時間外は連絡しないというルールを明確にする。そして責任者の名前で、社内外にきちんと通達をする。
顧客からの連絡については、会社として「担当者個人は時間外の連絡は受けない。何かあれば代表の顧客対応窓口へ」といったお願いを明確にすることで、ある程度抑制されるだろう。
社内で「休日に思い付いたアイデアをチャットで送ってしまわないと逆に気になる!」というタイプの人のためには、休み明けに送信されるようタイマー機能を使う、時間外はチャットの通知がオフになるようにするなど、ツールを上手に使う方法も周知するとよいだろう。
業務時間外に対応する必要があることも、例えば問い合わせ対応ならチャットボットを導入するなど、なるべく人力での対応を減らす方策を考える。
人がやらざるを得ないこともチームで対応し、特定の人に負担が偏らないようにする。また、「連絡があったらすぐに対応できるように」と待機させるなら、そのための手当を払うことも考えるべきろう。
休日でも仕事のことを考えていたい人もいれば、それどころではない人もいる。職場の多様性が増すほど、仕事との距離感や仕事以外の時間の過ごし方は人それぞれだ。
だからこそ、業務時間外はそれぞれの人生の充実のための時間として尊重する――そんな理解を職場内に広めていく必要がある。
それを頭で理解するだけでなく実感するために、同僚や上司・部下の仕事以外の側面を知る時間を取るのも有効だ。
もうずいぶん前になるが、毎週1回オフィス内にいる人が集まり、おやつを食べながら「仕事以外の話をする」という「おやつタイム」を設けている会社を取材したことがある。
「仕事以外の話を」となると自然に趣味の話や家族の話になる。その結果、「◯◯さん、今日はライブに行くんでしょ? 早く上がったら?」とか、「□□さんは3人の子育てをがんばってるんだね。無理しないでね」といった気遣いをしあえる職場になったと、社長さんが語ってくれた。
そういう思いやりを持てるようになると、業務時間外の連絡を控える、時間内に終わらせるということに、前向きに取り組めるのではないだろうか。
以上、「つながらない権利」がなぜ重要か、それを実現するために職場でできることは何かについて考えてみた。仕事を離れて休息を取ることは仕事の生産性にもつながるのだから、会社としても本気で取り組んでもらいたい問題だ。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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