データ活用やツール導入によって成果を上げ続ける営業組織を作る「セールスイネーブルメント」が注目を集めている。しかし、営業活動は営業担当と顧客とが共同で進めるもの。営業だけの能力を開発する「セールスイネーブルメント」だけでは不十分である。
顧客が社内で調整することを支える、顧客起点の営業スタイル「バイヤーイネーブルメント」を身に付けると、営業組織の生産性はさらに高まるだろう。
本記事では、米国のトレンドであるバイヤーイネーブルメントの考え方や背景、取り組みのポイントや進め方を解説する。
営業活動は顧客から断られることのほうが多く、大変な仕事だ。しかし、見落としがちなのは「顧客自体も発注する(購入する)のが大変だ」という視点である。
購買を断ったということは、顧客が購買するためのプロセスにおいて誰かしらに反対されてしまい、購入できなかったということだ。
例えば、何かのITツールを導入するとして、顧客はどんなプロセスをたどるだろうか? 自社で自分自身が数千万円かかるITツールを契約したいと思ったときの工程も思い浮かべてみてほしい。
営業から話を聞いて、魅力的で良さそうだと思う。そこから「いい話を聞いた」と上司に共有をするも全ては伝わらず、「ちゃんと話聞いてこいよ、◯◯は確認したのか?」とフィードバックされる。また、本当に購入したいなら上司だけでなく、部門内の関係者や経営の役職者、情報システム部門、法務部門、購買部門などさまざまな関係者に話を通しておかないといけない。
そこには無数の壁がある。「俺は今やるべきじゃないと思うよ」「ちょっと高いんじゃない?」「事例がないならやめておこうよ」「費用対効果は合ってるの?」「こっちの製品のほうがよくないか」「この機能が不足してるな」「過去にやったけど失敗したはず」……。それぞれの意見が壁になるのだ。
Gartnerの調査では米国企業の購買の意思決定に関わる人数は平均で10人近くに及ぶといわれている。10人皆が同じ基準で仕事の判断をしているわけではないため、それぞれバラバラに意見を言う。顧客の会社規模が大きくなるほど、この関係者は縦にも横にも広がっていく。つまり複数の役職や職位、部門の方々に話を通さないといけない。
その過程で新しい取り組みをしたいと顧客側が企画しても、他の人の意見を聞いているうちに「これは無理だ。通せない……」と諦めていく。営業から魅力的な提案を受けていて、自分自身は導入したいと考えていたとしても、組織を動かすのは厄介で難しい。
会社を動かすこと、つまり複数人の利害関係者を合意形成に導くことは、そもそも骨が折れる取り組みなのだ。
米国の最新のトレンドでは、「営業活動における顧客の購買の難しさ」が、セールスの真の失敗の原因と指摘されている。そこで、顧客の購買担当が社内で適切な段取りで的確な提案と調整をできるようにエンパワーメントする「バイヤーイネーブルメント」という考えが主流になり始めている。
対となる「セールスイネーブルメント」は営業の研修やコンテンツ提供により、営業担当がうまく顧客に喋れるようにフォローするものだが、バイヤーイネーブルメントは顧客自体に情報やコンテンツを提供することで、顧客が社内でうまく立ち回れるように支援する。
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