新時代セールスの教科書

「社内調整の壁」で失注……を防げ 次世代の営業「バイヤーイネーブルメント」の可能性(2/3 ページ)

» 2024年05月28日 08時30分 公開

バイヤーイネーブルメント実践で重要なポイント

 次に、バイヤーイネーブルメントを進める際のポイントを説明しよう。

 まず、顧客の担当者は、新しい企画・取引を通せるだけの、申請ロジックを組み立てないといけない。

 無数にある考慮すべき意思決定基準と、それを押さえた情報を整理し、優先度の高いものから一つ一つ順番に言語化。顧客はそれを見て社内説明をする。

 金額が大きく、複数人が関わる意思決定となるほど、このロジックのボリュームは多くなる。超大手企業との商談になると、この情報量は10万字にも及ぶこともある。

 顧客が社内で的確なコミュニケーションができるようサポートすることがバイヤーイネーブルメントだ。バイヤー(購買担当者)の説明力をイネーブルメント(向上)させる

 申請ロジックを作成するときは、最終的なゴールから逆算して、あらゆる論点に応えられる情報を渡さなくてはならない。

申請ロジックに追加する情報

顧客の現状、課題や問題、取り組みの優先度、新しい取引先の情報、新しい取り組みをするべき理由、具体的な取り組み内容、取り組みによって見込めるROI、発注後のマイルストーン、成功するために工夫する体制、参考となる類似事例、ベンダーとの会議体、施策のKPI……

 これらの情報を基に顧客が企画書を作成し、社内の関係者に流暢(りゅうちょう)に話せるようにしなければならない。仮に社長や役員に反対されたとしても、取り組むべき合理的な理由や、購買後の成功イメージを語れないといけない。

 そのためには単に製品資料を渡すだけでは意味がない。より踏み込んだ情報やコンテンツの整理、事例やシミレーションの提供のほか、個別の提案内容を作り込み、顧客がいつでも読み直せる状態にしなければならない。

 また、それぞれの論点が、ただロジカルに詰まっていれば商談が成功するわけではない。ロジックだけでなく共感も重要だ。会社が普段掲げている今後の方向性や目標、重要な意思決定者の考え方や好き嫌いなども加味する。

 営業が言いたいことを売り文句で話すだけでなく、顧客が社内で説明しきれるかを徹底的に考える。本当の意味での顧客視点の営業活動ノウハウが「バイヤーイネーブルメント」だといえる。

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