また、これらのロジックや情報がきれいにそろっていたとしても、決してそれを営業が提案して投げっぱなしにしてはいけない。その顧客起点のロジック(購買するべき理由)について、適切な関係者全員が理解し、納得できている必要がある。
となると、営業担当が「商談していない間のボール」も管理する必要がある。
顧客が話を通すロジックを、どのような段取りで、誰が誰に、どういう時間軸で、どんな粒度で伝えていかなければならないか。それは公式な会議体か非公式な会か。口頭なのか文章なのか資料なのか――。
顧客が複数人の関係者を調整し、合意形成に大成功する絵姿から逆算して、その過程でどんなことが起こり得るか、どんなプロセスをたどるのかを推測。どういう順番で動いていけばこのゴールやプロセスが最短で進むのかを考え、顧客と営業担当が一緒に、細かく目の前のタスクを切りながら動く。
金額の大きな購買になると、顧客自身もどう進めればいいのか、全て把握しているわけではなかったりする。営業担当も「こう動いていきましょう」と全てを指示できるわけではない。つまり、双方で腹を割って、必要なタスクを洗い出し、一緒に前に進めるというアプローチが必要だ。
過去の発注成功の事例や、会議体や意思決定フロー、関係者の整理、話を進めるための必要日数といった情報を可能な限り把握し、顧客にも協力してもらわなくてはならない。
バイヤーイネーブルメントは、「こういうゴールに向けて、こんなプロセスで進めていけば合意形成が取れますよ」と、専門家としての立場で「うまい進め方」を顧客に伝える役割もある。他の会社ではこんなプロセスで購買した、こういうステップを踏んだ、ここで失敗しやすいから注意が必要だ――と、取引を進めるための段取りを営業側がサポートする。
強い営業担当は顧客の仕切りがうまい。どういう段取りで事を進めるのか、肌感覚がある。これを論理的にタスクやスケジュールで整備し、再現性のある形で顧客に共有できるようにするわけだ。
バイヤーイネーブルメントは新しい概念だが、考え方やアプローチは従来の営業活動から大きく変わるものではなく、本質的なものだ。しかし「売れる営業組織を作ろう」「営業をイネーブルメントしよう」「営業の成功の型を作ろう」と、顧客起点ではなく営業起点で施策を設計しようとしすぎると、取引を進めるうえでは顧客の存在が不可欠であることを見過ごしてしまう。
自社の営業組織が、顧客が意思決定の調整を進めるうえで必要な情報や段取りをちゃんと共有できているのか。社内だけではなく、社外のお客さまの情報環境や調整事という観点で見直してみると、売り上げ向上のヒントがあるはずだ。
株式会社ビズリーチにて当時日本で一早くカスタマーサクセスチームの立ち上げを経験し、2018年株式会社openpageを設立。顧客取引のDXソリューション「openpage」を提供、米国流のカスタマーサクセスやセールステックについて最先端の情報を国内で広く啓蒙する。
著書に「実践カスタマーサクセス BtoBサービス企業を舞台にした体験ストーリー」(日経BP、2023年)
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