流浪のクルーズトレイン「THE ROYAL EXPRESS」が静岡、浜松へ JR東海に観光列車の幕が上がる杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/8 ページ)

» 2024年06月15日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

出張の始まりはJR北海道

 伊豆のクルーズトレインとして定着した「THE ROYAL EXPRESS」だけど、2019年に「THE ROYAL EXPRESS」の北海道クルーズが発表され、2020年に運行開始となった。「北海道胆振東部地震の影響を受けた北海道を応援するため、観光振興と地域活性化を目的とした、観光列車の走行プロジェクト」と紹介された。これは鉄道ファン、旅行ファンなど多くの人々を驚かせ、関心を集めた。

 北海道庁には、JR北海道が単独では維持困難としている黄色線区(輸送密度200人以上2000人未満の線区)の活用法を探る意味もあった。経営環境が厳しいJR北海道をテコ入れしたい。そこで北海道庁は2016年に道内の経済・観光関係者を招き「観光列車運行可能性検討会議」を開いた。この会議には伊豆急行の担当者が招かれている。2018年には北海道庁、北海道大学、観光事業者が出席して「観光列車旅行商品造成検討事業推進会議」を開催した。この延長線上に「THE ROYAL EXPRESS」の「HOKKAIDO CRUISE TRAIN」がある。

 「THE ROYAL EXPRESS」は直流区間用の電車だ。JR北海道は交流電化区間と非電化区間しかないから自走できない。そこで「THE ROYAL EXPRESS」を客車として扱い、JR北海道のディーゼル機関車が引っ張る形とした。屋根上にあるパンタグラフを撤去し、交流区間でうっかり通電させないよう対策した。

 車内で使う電力のために、東急はJR東日本から電源車を購入して連結した。電源容量の都合で「THE ROYAL EXPRESS」は8両編成ではなく、3両を間引いた5両編成になった。募集定員は15組30名に限定され、3泊4日が1人当たり85万円からのツアーとなった。8月から約1カ月に5回のツアーを予定していたけれども、コロナ禍の影響で3回にとどまり、2回は翌年に繰り越して、2021年は7回運行した。

釧路湿原を行く「THE ROYAL EXPRESS」。黄色い車両がディーゼル機関車、白い車両が電源車。欧米の荷物室付き長距離列車を連想する(写真提供:東急)

 伊豆急行の車両を東急が借り上げ、北海道までJR貨物の機関車が引っ張って運んでいく。鉄道会社を総動員したプロジェクトだ。乗客の方も、抽選倍率が平均8.2倍になるほど大人気だった。以来、毎年開催されて、2024年も8月に運行予定だ。

 北海道におけるクルーズトレインの需要に自信を付けて、JR北海道は2026年から自前のクルーズトレイン「赤い星」「青い星」を運行すると発表した。キハ143形ディーゼルカーを改造し、デザインは水戸岡鋭治氏が担当する。

JR北海道が2026年から運行する観光列車(出典:JR北海道、スタートレイン計画 始動

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