流浪のクルーズトレイン「THE ROYAL EXPRESS」が静岡、浜松へ JR東海に観光列車の幕が上がる杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/8 ページ)

» 2024年06月15日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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JR東海が観光列車に目覚める……かも

 もうひとつ、筆者が期待を込めて思うことは「実は、JR東海が観光列車そのものに関心を持っているのではないか」だ。クルーズトレインは観光ビジネスのシンボルとして、鉄道と地域の結びつきを強くする。すでに東海道新幹線では、オンライン予約の「EXサービス」において、「EX旅パック」「EX旅先予約」のメニューを作り、観光施設や宿泊施設との連携を進めている。さらに「推し旅アップデート」として、趣味に焦点を当てたイベントを提供している。

 JR東海はビジネス需要重視の東海道新幹線で「推し旅アップデート」を推進し、旅行需要を開拓した。アフターコロナの需要回復に貢献している。筆者は「推し旅アップデート」の在来線版として観光列車に期待する。なにしろ富士山は、誰もが推すであろう最大のコンテンツだ。

 しかしいままでJR東海には、観光列車の運行実績は少なく「飯田線秘境駅号」が挙げられる程度だった。食事込み、宿泊施設をセットしたクルーズトレインもない。せっかく景色のよい在来線を持っていても、宝の持ち腐れだった。

 いうまでもなくJR東海は、静岡県を東西に横断する東海道本線のほか、身延線や御殿場線、飯田線などの支線がある。さらに西へ向かえば、中央西線、高山本線、紀勢本線がある。車窓の景色も素晴らしく、なぜいままで観光列車がなかったのかと思う。

 「THE ROYAL EXPRESS」が四国へ向かうために、静岡県内を機関車にひかれて回送されていった。それをJR東海の関係者が見て、あるいは沿線の人々が見てどう思っただろう。「これ、ここで営業してくれないかな」と思ったかもしれない。

 その夢がかなうときが来た。そしてSHIZUOKA・FUJI CRUISE TRAINに刺激されて、JR東海が観光列車を企画するかもしれない。

 もうひとつ気になることは、東急の観光列車ビジネスの行方だ。「THE ROYAL EXPRESS」の改造元となる2100系は1993年製造だ。内外装をリフォームしたとはいえ、車体や足回りなどが30年も経過している。そろそろ老朽化の対策、あるいは後継車両の製造が必要になる。車両がもう1本あれば、北海道と四国を同時運行するなど、ビジネスを拡大できる。海外の富裕層は、JRの境界を越えられないクルーズトレインではなく、日本一周のクルーズトレインに期待するだろう。東急ならそれができるかもしれない。

SHIZUOKA・FUJI CRUISE TRAINは、富士山満喫ツアーだ。写真は3日目の宿泊場所「日本平ホテル」のエントランス(「THE ROYAL EXPRESS〜SHIZUOKA・FUJI CRUISE TRAIN〜」が静岡を走ります報道資料より)

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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