さらに、インサイドセールスのポジションを生かし、事業全体の成長につながるような事業投資・事業開発の業務に広がっていく可能性もある。
インサイドセールス部門には毎日、無数の顧客コミュニケーションが発生する。IP電話や商談分析ツールで架電ログが取れている場合、それは貴重なVOC(ヴォイス・オブ・カスタマー:顧客の声)だ。
この顧客の声を活用し、事業としての失注リスクの分析とその打ち手を考えることができる。「うちの業務プロセスに合わない」「セキュリティに懸念がある」「情報収集だけで積極的に投資するつもりはない」など架電のお断りトークはさまざまある。事業戦略的に取り組むなら、「なぜか?」「具体的には?」「どうなったら進めたいと思う?」など架電のトークで聞く習慣を作りたい。
この対話のデータがたまってくれば、顧客は何に引っ掛かかっているかの仮説が充実する。それは事業として対策しなければならない「課題」である。この“課題発見機”としてインサイドセールスは機能し、今後の事業投資の内容や優先度を考える司令塔になり得る。
また、すでに顧客の懸念には対応済で、単にセールストークとしてうまく伝えられていないだけであれば、架電スクリプトや製品資料の改善によって商談化率は高まっていく。
インサイドセールス部門で顧客の好反応・悪反応が架電データから分析できるようになれば、自社のマーケティングメッセージの高速PDCAを回すことが可能になる。
アポイントが取れたときに、「何が良いと思って商談をしようと思ったか」「どこに期待しているか」などヒアリングをする。そこで出てくる生の声は、マーケティング部門にとっては貴重なクリエイティブの種である。
生成AIを活用すれば、顧客の声を集めるだけでなく、そこからクリエイティブ案を作ることもできる。インサイドセールス部門が顧客の声の収集と、マーケティングメッセージの仮説立てや案出しができるようになれば、インサイドセールスとマーケティングの垣根もなくなっていくだろう。
加えて、マーケティングメッセージだけでなく自社製品の機能案や開発案もインサイドセールスから示唆を出すことができる。「どの機能に興味があるか」「どんな機能があったらいいか」をアポイント時にヒアリングしていれば、製品開発案についても良質なビッグデータがインサイドセールス部門にたまる。
たまったデータを生成AIに分析してもらい、そこから新機能案をインサイドセールスから整理することも可能だ。自社の強みをもっと強化する機能や、弱みを補填する機能をインサイドセールス起点で開発していけば、結果的にインサイドセールス部門の商談化率や受注率を高めることにつながる。
通常の業務を進めるうえでの架電数や商談獲得数を追うだけで大変なので、そこから外れた事業開発的な仕事をやりたくても出来ないという会社は多い。
しかし、AIやセールステックで生産性を上げたという前提でインサイドセールスを見たときに、強みとなるのは「顧客との無数の壁打ち」ができて「顧客からの生の対話データ」が残ることだ。これを営業戦略、事業戦略に生かしていけば、インサイドセールスは事業成功の突破口となる。
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