「住民のみなさんにはヱビスブランドのことをもっと他の人に伝えたいという思いがあり、熱量が非常に高い。新しい住民が増えるととても喜んでくれる」
YEBISU BEER TOWNの特筆すべき点は、こうした熱量の高いファンの存在だ。彼ら彼女らの中には、単なる参加者ではなく「BEER TOWN実行委員」として積極的にコミュニティーの運営にも関わっている人もいる。
企画の提案、投稿内容やコミュニティーのトンマナに対するフィードバックなど、実行委員達を中心に住民たちが街の運営に関わる。
例えば、2024年1月能登半島地震が発生した際、住民から「これだけ住民がいるのだから何か協力したい」という声があがった。そこから投稿キャンペーン企画が生まれ、寄付金を被災地に送る取り組みへとつながった。コミュニティー内で行う企画は、住民の声が反映されていることが多い。
こうした文化が醸成されている大きな理由は、萬谷氏ら運営が立ち上げ時から企業と住民のフラットな関係性を意識してきたからだろう。
萬谷氏は「熱量が高いファンとは単にブランドと消費者ということではなく、価値観でつながる関係性だと考えている。それはとてもフラットな関係であり、一緒になって新しいビール文化を作っていきたい」とし、「そうした中で、つながりとしての“ご縁”や“思い”を非常に大切にしている」と話す。そんな思いがあるからこそ、ファン同士が語り合う場の名前を「みんなの“縁”会場(宴を縁に)」にした。
こうしたブランド側の思いがファンにとっても心地よいからこそ、住民たちが自らコミュニティーを盛り上げようとしているのかもしれない。
同社はこの“住民が自走する文化”を築くために、コミュニティーの段階を見極めながら戦略を立てて施策を講じてきた。
萬谷氏はコミュニティー運営を始めた当初はターゲットを「最も熱量の高いファン」にし、コミュニティーの熱源となる存在を集めることに注力した。熱量がなければ、その後いくら裾野を広げても盛り上がらず、仮に人が増えても休眠者が増えていくだけになってしまう。だからこそ、最初は熱量が高い人を集め、その熱量が一層高まっていくことを重視した。
「最初から幅広くいろんな方がいるコミュニティーだと、投稿するのも緊張すると思った。だからまずは熱量が高く、ヱビスについて話したい人たちのための場所を目指した」
次に、そんな高い熱量で作られたコンテンツを外に向けて発信していき、新たな住民を増やしていった。既存の住民は「ヱビスビールを広めたい」「コミュニティーを盛り上げたい」と考えている人たちなので、新しい住民を歓迎。コミュニティー内の発信や投稿に「いいね」などのリアクションが増え、後から参加する人にとっても居心地の良い空間が形成された。このように段階を経て住民を増やしていくことで、活発さを保ちながら拡大することに成功した。
もちろん、住民たちのアクションには、ブランド側もしっかりと反応している。こうした循環が居心地を良くし、コミュニティーへ帰属意識を高めていくようだ。
「誰でもフラットに発言していい場所だと感じられる空気感がある。住民の皆さんが自由に発言しているという印象を持ってくれている」
サンリオはなぜ強い? 「かわいい」だけじゃない、ファン作りの3つの極意
資生堂の美容部員がインフルエンサー化 華やかな投稿に隠れたSNS戦略とは
「黒づくめの組織」が起爆剤に? 『名探偵コナン』の映画がヒットし続けるワケ
丸亀シェイクうどんの大ヒット 背景にある「あえてひと手間」が持つ効果とは……?
D2Cはオワコンなのか 多くのブランドが淘汰された背景に“闇深い”事情
「顧客の囲い込み」という施策への、強烈な違和感Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング