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「大人のねるねるねるね」に「大人様ランチ」……なぜ大人はノスタルジーに魅せられるのか令和の無駄学(2/2 ページ)

» 2024年07月19日 08時30分 公開
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ポイントは「懐かしさの中にある新しさ」

 また、インタビューの中でもう一つ多かったのが「子どもの頃食べていたものとは何が違うのか実際に食べてみたいと思った」「大人用と書かれていたことで、どんな味なんだろうと気になった」という意見です

 多くの大人にとっては、20年以上前に自分が食べていたものになります。20年といえば、音楽の聴き方一つとってもカセットテープからCD、MD、ミュージックプレイヤー、配信サービスという変遷をたどるぐらい、長い時間です。いくらロングセラーの商品であれ、全く変化していないとは考えにくく、何かしらの進化が前提に考えられます。

 ましてや、“大人用”と名のついた商品があれば、どんな進化があるのかと胸を躍らせずにはいられないでしょう。

 実際に、最初に開発された『大人のねるねるねるね』(※4)は、ソムリエ監修のもと生み出された、大人も楽しめる甘さ控えめな赤白2種の本格ぶどう味でした。また、大人も最後まで飽きずにおいしく食べられるように、通常の『ねるねるねるね』よりもふんわりと軽い食感になっていたり、シュワシュワ発泡するトッピングをかけるとスパークリング感も楽しめる仕様になっていたり、大人ならではの楽しみ方を想定して作られているのが分かります。

 インタビューで食べた後の感想を聞いた時にも「高級な感じがした」「子どもの頃食べたものとは違って本格的な感じがした」という意見がありました。

※4:『大人のねるねるねるね 赤白2種の本格ぶどう味』は終売。現在『大人のねるねるねるね』は異なるフレーバーを展開中。

 ですが、こうした変化は必須なのでしょうか。昔のものを懐かしく食べられれば十分なのではないかと思う方もいるかもしれません。

 ただ、懐かしさは儚さと表裏一体になっています。実際に、最近知育菓子を食べた方からも「昔はすごく難しく感じたのに、今やってみたら簡単でなんだか寂しかった」という意見もありました。新しさがない状態だと、懐かしさに浸れてうれしいという気持ちと同じくらい、マイナスな感情も残ってしまう可能性があります。それを打ち消してプラスの感情にしてくれるのが、懐かしさの中にある新しさなのかもしれません。

大人が「ノスタルジー」を求めるのは本能の一種

 その他にも近いものとして、「大人様ランチ」があります。いろいろな飲食店が期間限定で定期的に出してくるメニューで、その名の通り、大人向けに「お子様ランチ」を進化させたものになります。

 「大人様ランチ」のワンプレートには、オムライス・ナポリタン・ハンバーグ・エビフライなどの子どもが大好きなものが乗っているだけでなく、「お子様ランチ」の象徴ともいえる旗がついていることが多いです。この旗こそが、食事としては必要のない“無駄”だけれど最も重要なものでしょう。この旗を見るだけで子どもの頃「お子様ランチ」に目を輝かせた時の気持ちがよみがえり、ついつい「大人様ランチ」を頼んでしまうという方もいるのではないでしょうか。

 もちろん、メニューは同じでも味付けは大人向けになっている場合が多いので、子ども向けの甘い味付けで飽きてしまう心配もなく、おいしく最後まで食べられるようになっています。

(写真ACより)

 私たちがつい「ノスタルジー」を追求してしまうのには行動心理学的背景があります。子どもの頃は、全ての事象やモノを新しく感じ、ワクワクした気持ちになることが多い時期です。しかし、大人になると新しいものに直面する機会が減り、あまり代わり映えのない毎日をおくるようになります。そうすると、その反動でワクワク感=ドーパミン刺激を求めるようになるそうです。(※5)

※5:「村田裕之の団塊・シニアビジネス・シニア市場・高齢社会の未来が学べるブログ 『ノスタルジー消費』が経済動かす」参照

 ドーパミンは快感物質とも呼ばれ、気持ちを高揚させてやる気を促す効果があります。そして、このドーパミンは新しいワクワクに出会ったタイミングだけでなく、過去のワクワク体験を思い出すときにも活性化するとされています。(※6)

※6:毎日新聞 人生の筋トレ術「脳が若い人ほど過去をよく振り返る? ノスタルジアの効果」

 また、シンガポール国立大学などの研究では、ノスタルジーによって「主観的幸福感=収入、学歴、健康状態といった客観的な条件とかかわりなく、自分が幸福だと感じる状態」が高まることも分かってきました。そのため、「ノスタルジー」を追求することは本能的にワクワクを求める行動の一種であり、自身を幸せにするための手軽な方法だともいえるのです。

 ノスタルジー消費も一見無駄に見えるけれど、私たちが無意識的に幸せを求めてついついやってしまう「無駄」だったのかもしれません。それでは、また次回もお楽しみに。

著者紹介:植月ひかる

株式会社 博報堂 STP局 

マーケティングプラナー/ヒット習慣メーカーズ

2017年 博報堂に入社。社会に新たな潮流をつくることを夢見て早8年。

最近は平成のアニメを観るなどして童心にかえっています。

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