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DeNAを支える第2の柱「Pococha」 急成長の背景にある、徹底したユーザー理解(1/2 ページ)

» 2024年07月31日 08時00分 公開
[大村果歩ITmedia]

 DeNAが提供するライブコミュニケーションアプリ「Pococha」が、同社の収益の柱になりそうだ。2017年にリリースし、2024年3月末時点でダウンロード数は577万件を突破。2024年3月期の通期決算では、ライブストリーミング事業の売り上げ収益が426億円で、2021年から約1.75倍に成長している。売上収益構成比をみると、主力であるゲーム事業の39%に対し、ライブストリーミング事業は31%と今にも追い越す勢いだ。

CX DeNAを支える第2の柱「Pococha」(提供:DeNA)

 Pocochaがリリース以降長年注力するのが、ユーザー視点に立ったアプリ運営だ。現状のアプリに使いにくい部分や分かりにくい部分はないか――ユーザーの声から日々課題を見つけ出し、改善に励んでいる。

 「過去には適切な顧客体験を提供できず、ユーザーに負担をかけてしまうこともあった」

 Pococha事業部マーケティング部 リードコミュニケーションプランナーの大西正太さんはこう振り返る。Pocochaはこれまでに、どのようなユーザー体験のアップデートを重ねてきたのだろうか。

同じ情報を何度も……“残念”な顧客体験を提供した過去

 Pocochaはライバー(配信者)とリスナー(視聴者)が双方向にコミュニケーションできるライブ配信アプリだ。日本、インドでサービスを展開。インフルエンサーに限らず、一般人のライバーが多いことが特徴だ。

CX ライブストリーミング事業の売り上げ収益426億円で、2021年から約1.75倍に成長(ディー・エヌ・エー 2024年3月期 通期決算説明会資料より)
CX 売上全体の31%を、ライブストリーミング事業が占める(ディー・エヌ・エー 2024年3月期 通期決算説明会資料より)

 2017年のリリースから順調にダウンロード数を伸ばしており、競合の多いライブ配信アプリ市場の中でも好調を維持しているようにみえるが、ユーザー視点での「アプリの使いやすさ」や「ユーザー状態に合わせた適切なコミュニケーション」には長年課題があったという。

 Pocochaのユーザーはアプリの使用目的によってライバーとリスナーの2種類に分類できるが、これまでアプリ内のトップバナーやプッシュ通知、ポップアップメッセージは、それぞれ同じ情報を発信してしまっていた。ライバーにしか関係のないイベント情報がリスナーにも表示されるなど、情報の出し分けができていなかったという。

 「情報を必要としていないユーザーにコミュニケーションを取ってしまうことも多く、適切な顧客体験を提供できていなかった」(大西氏)

 これらの課題が発生した背景には、各タッチポイントで複数の管理システムを使用していたことがある。プッシュ通知、トップバナーなどそれぞれのタッチポイントで個別に設定が必要なため、ユーザー行動に合わせて最適なタイミング、タッチポイントでコミュニケーションを取ることが難しい状況にあった。

 例えばイベントの告知を発信する場合、本来であればトップバナーで告知情報を見たユーザーにはプッシュ通知でのコミュニケーションはしないなど、認知の状況に合わせて情報の出し分けをしたいところだが、管理システムの関係でこれらの対応ができていなかった。

 複数のシステムを使用することでオペレーションの工数も増加。施策の分析も、各ツールからデータを抜き出し、統合し、それから分析……と煩雑になり、施策を実施する速度も遅くなってしまいがちだったという。

CX 好調のPococha。“残念”な顧客体験を提供した過去も……?(提供:DeNA)

 これらの課題を解決するために同社は現在、ユーザーの状態ごとにジャーニーを設計し、適切なタイミングで、適切なコンテンツを配信できるよう仕組みを整えている。カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」を導入し、ユーザーとのタッチポイントを横断して管理できる環境作りを強化する。

 まだ検証中な部分もあるが、これによりリスナー、ライバーの属性ごとに分けてユーザーとコミュニケーションを取れるようになった。例えば、リスナーの状態として(1)ライバーを既にフォローしている人には、他ライバーの配信枠への回遊を促すメッセージを送付、(2)ライバーを1人もフォローしていない人には、フォローを促すメッセージを送る――など、各ユーザーの状態に応じてコミュニケーションの内容を変えている。

 他にも、新規登録者だけに向けて離脱を防止するためのキャンペーンを打つなど、属性ごとに施策を展開することも可能になった。

 また、これまではユーザーの熱量が最も高い「会員登録直後」のタイミングで、積極的なアプリ利用を促すメッセージを送れていないなど、機会損失が発生していた。この課題に対しては、ユーザーに会員登録のタイミングで趣味や興味を登録してもらうことによって解消を図る。タイムラインにユーザーの趣味・興味に関連するライバーの配信枠を表示し、マッチングが起こりやすいようにした。

 「これまではリスナーが自分の趣味嗜好に合ったライバーを探す必要があり、ユーザー側の負担が大きくなってしまっていた。自分に合ったコンテンツに巡り合いやすい体験を提供することで、より配信枠でのコミュニケーションが活性化するように工夫している」

CX ユーザーに会員登録のタイミングで趣味や興味を登録してもらう(提供:DeNA)
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