年末年始休暇(正月休み)と同じく従業員の夏期休暇(夏休み)を設定している企業は多いと思います。
中には企業があらかじめ日程を設定した上で、年次有給休暇を使って夏休みを取らせる企業もありますが、その扱いは問題ないのでしょうか? この記事では事例をもとに、「休日と休暇の違い」「企業が年次有給休暇を利用して夏休みを取らせることができる場合とできない場合」「年次有給休暇の計画的付与を利用する場合の注意点」について解説します。
Aさん(28歳)は、昨年10月、中途採用で甲社(食品製造会社・従業員数100人)に入社し、機械オペレーターをしています。
6月上旬。工場長から従業員全員に案内が配られました。
<今年度の夏休みに関するお知らせ>
〇令和6年度は、8月10日から18日まで夏休み期間とし、その間は業務を一斉に停止するので工場内を閉鎖します。
〇夏休みについては例年と同じく、土日は公休扱いとし、12日(月)〜16日(金)までの5日間は、計画的付与に基づき、年次有給休暇で取得することとします。
Aさんは今年4月に会社から年10日の年次有給休暇(以下、「有休」とする)を付与されました。東北地方にある実家の家業を手伝うために、6月上旬に5日間の有休をすでに取得しており、残りの5日間は9月下旬、再び実家の手伝いで帰省するため申請する予定です。配られた文書を読んだAさんは、すぐに工場長の元へ向かいました。
Aさん: 夏休みのことでご相談があるのですが……。
工場長: どうしたの?
Aさん: 実は9月下旬、再び実家に帰省するので、5日間の有休を取りたいんです。しかしこの文書によると、夏休みのために5日間の有休を充てるんですよね?
工場長は大きくうなずいた。
Aさん: それだと夏休みが終わったら自分の有休がなくなってしまいます。9月下旬に有休を取って実家に帰りたいので、夏休みはいりません。
工場長: 無理だよ。だって夏休みの期間と、公休以外の日は有休で消化する扱いは、前から会社の就業規則で決まっているし、労使協定だって結んでいる。
それにその間工場内には入れないから働く場所ないでしょ? 夏休みは長いんだから、その間実家に戻って手伝いをしてくればいいし、都合が悪いんだったら、実家には事情を話して諦めてもらいなさい。
Aさん: 夏休み期間中は学生のアルバイトがいるから人手は足りています。だから9月下旬に休みたいのに……。
「休日」と「休暇」は、労働者から見ると会社を休んでいることになりますが、定義には違いがあります。
休日は労働契約において労働義務がない日のことで、労働基準法で定めた1週1日もしくは4週4日の休日を「法定休日」、法定休日に加えて、企業が任意に定めた休日を「法定外休日(所定休日ともいう)」といいます。例えば土・日が休日の場合、日曜日を法定休日に定めると土曜日が法定外休日になります。法定休日と法定外休日は企業内で一般的に「公休」とも言われます。
休暇は本来は労働日であるが労働を免除する日のことをいい、「法定休暇」と「特別休暇」の2つがあります。
法律の定めにより一定基準を満たした労働者に対して付与する義務がある休暇で、有休のほかに産前産後休暇、育児休業、介護休業などがあります。
企業が従業員への福利厚生の一環として独自で付与している休暇で、一般的には慶弔休暇、傷病休暇、年末年始休暇、夏期休暇などが該当します。法律に定めがないので、休暇の有無や休暇の種類、休暇を取得できる従業員の条件、有給か無給かなどは企業が決定できますが、決定事項は就業規則への明記が必要です。
企業が夏休みを有休で取らせることができるかできないかは次の判断によります。
休日や特別休暇として夏休みが設定されているケースです。
有休は労働基準法39条に定めがある有給(休んでも賃金が減額されない)休暇で、労働義務のある日についてのみ請求でき、逆に労働義務のない日(休日)に取得することはできません。就業規則で夏休みを休日に定めているかどうかを確認する必要があります。
また、就業規則で特別休暇として夏休みが明記されている場合、明記された期間や日数は有休の付与ができません(ただし、夏休みが無給の場合、本人の申請により有休として取得する扱いは可能)。
計画的付与がされているケースです。
有休の計画的付与制度とは、企業が計画的に有休取得日を指定する制度です。甲社のように社内で一斉付与をする場合、夏期休暇として取得可能な期間と日数だけを決めて交代で付与する場合などがありますが、制度の運用には労使協定の締結と就業規則への明記が必要です。
計画的付与制度の対象になるのは、有休のうち5日を超える部分です。例えば、有休の付与日数が年20日の従業員の場合は15日、年10日の場合は5日までを付与対象にすることが可能。有休を前年度から次年度に繰り越した場合は、繰り越し分の有休を含めて5日を超える部分を付与の対象とすることができます。
ただし、計画的付与をした場合、会社が一方的に有休日を変更することはできず、従業員も自己の都合に関係なく有休を取ることになります。なお、新入社員など有休の権利がない、もしくは有休の付与日数が5日以下の従業員については、計画的付与を運用することができません。休業させた場合には有給の特別休暇を与えるなどの対処が必要です。
労働基準法の改正により2019年4月から、企業は法定の有休が年10日以上付与される労働者に対して、最低年5日の有休を取得させることが義務化されました。特に有休を取りにくい職場では、義務化への対処として計画的付与を行うことにより、従業員が躊躇なく有休を取れるようになり、有休の取得率も上がります。
逆に日頃から有休を取りやすい職場の場合、計画的付与を行うと自分の都合で有休を取得できる日が減るので、労働者としては、その分使い勝手が悪くなります。普段から従業員が積極的に有休を取得している、子育て中や家族を介護している、勤務年数が浅く有休の付与日数が少ない従業員が多い……などの傾向がある職場では、計画的付与がかえって不満の対象になるかもしれません。
甲社の場合、会社としての対処は正しいですが、Aさんにとっては不満が残るでしょう。有休は原則従業員が指定した日に取得できるもの。そのことを念頭に置きつつ、職場内の有休取得状況などを踏まえながら制度を活用していきましょう。
1963年生まれ。旅行会社、話し方セミナー運営会社、大手生命保険会社の営業職を経て2004年社会保険労務士・行政書士・FP事務所を開業。労務管理に関する企業相談、セミナー講師、執筆を多数行う。2011年より千葉産業保健総合支援センターメンタルヘルス対策促進員、2020年より厚生労働省働き方改革推進支援センター派遣専門家受嘱。
現代ビジネス、ダイヤモンド・オンライン、オトナンサーなどで執筆中。
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