しかし、ボディコーティングが増えている一番の理由は、カーディーラーが新たな収益源として力を入れているからであろう。きれいなボディを長期間維持できるのは、リセールバリューにもつながると売り込みしやすい。つまり掛けた費用をある程度回収できると思わせるので、お金を引き出しやすい。
半導体不足や自動車ディーラーの販売チャネルの統合、直近では認証問題による生産停止など、新車販売の現場であるディーラーには逆風ばかりが吹いている。そんな中で、利益率が高く顧客に満足感を与えられるメニューがガラスコーティングなのである。
タイヤはアジアンタイヤでもいいが、ボディコーティングは高級グレードを選ぶ、というユーザーも見受けられる。それは節約志向のマインドからすれば理解できなくはない。だが筆者の目から見ると、むしろお金をかけるところが逆(高品質なタイヤは安心を買うものだ)にも思えるのだが、それが消費者心理というものだろう。
インバウンドがモノ消費からコト消費へとシフトしているように、自動車ビジネスも売るだけではなく、満足度を高めるサービスへと移行している。
一方、カーシェアリングやライドシェアリングなど、クルマを持たないスタイルも出現しつつある中、自分のクルマを所有し、いつでも好きなところに行けるという自由にどれだけのコストを払うのか。カーディテイリングビジネスには、そんな自動車ユーザーの憂鬱(ゆううつ)がリスクとして大きくなる可能性がある。
しかし、カーシェアリングや自動運転タクシーが主流となったら、それはそれでカーディテイリングビジネスの需要が発生することになる。
無人店舗でクルマの受け渡しを行い、洗車や給油はスタッフが定期的に行うなら、ボディをガラスコーティングしておけば、美観を保つ苦労は軽減できる。室内の清掃も専門の業者がまとめて行うようなシステムが構築される可能性が高い。
クルマでの個人の移動がなくならない限り、カーディテイリングビジネスは需要に合わせてスタイルを変化させながら、まだまだ発展していくことになりそうだ。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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