15年ぶりに与党が過半数割れとなった衆議院選挙。注目は今後の政局へと移りました。総選挙の前に注目を集めた自民党総裁選は、いまや随分過去の出来事のように映ります。
その総裁選で話題に上った解雇規制の見直しに関する議論も、すっかり鳴りを潜めました。これまでも解雇規制はにわかに話題に上っては萎(しぼ)む――ということを繰り返してきましたが、今回も総裁選限定の話題で終了しそうです。しかし、本当にそれでいいのでしょうか。
時代の移り変わりとともに、個人の働き方や労働環境が刻々と変化を遂げている中で、解雇をめぐる議論は取り残されている感があります。解雇規制の見直し議論はなぜ深まらないのか、議論で見落とされているポイントを考えてみたいと思います。
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
解雇規制をめぐっては「制度が厳しすぎる」といった規制緩和を望む意見から、規制緩和は「怖い」という不安の声まで、さまざまな反応があります。
解雇規制を見直す主な理由として総裁選で挙げられていたのは、硬直的な労働市場の流動性を高めるためです。
昨今は転職や副業が一般的となり、意思さえあれば職場を替えやすくなりました。有効求人倍率は1倍超えで、求人数が求職者数を上回る状態が続いています。一方で、いまや高度経済成長期のように事業が継続的に発展し増員し続けられるような環境ではなくなりました。退職しても次の仕事がすぐ見つかる、というわけではありません。誰もが自分の望む職場に移れるような市場環境には、ほど遠い状況です。
その点、解雇規制を見直して、企業が従業員を解雇しやすくすれば、会社は意に沿わない社員を辞めさせる分ポジションが空くため、労働市場の流動性を高められます。社員は退職しても今より次の職場を見つけやすくなるはずです。
前提として押さえておくべきことですが、会社と社員とでは当然、力関係に大きな差があります。社員1000人を抱える会社にとって、1人の退職は基本的に1000分の1のダメージでしかありません。退職した社員にとっては生活を支える収入源を失うことになり、人生の一大事です。労働市場が今よりさらに流動化しようがしまいが、極端な売り手市場にでもならない限り、退職をめぐる重みは会社側と社員側とでは雲泥の差があります。
一方で、会社側にとっては、有期雇用の場合を除き、一度社員を採用すると定年まで雇い続けなければならないというプレッシャーが生じます。そのため採用には慎重になります。仮に採用後に社員の能力不足が判明したとしても簡単には解雇できません。大抵の場合、解雇は不当と判断されるからです。
解雇できないと、能力が不足した社員であっても扶養するかのごとく雇い続けることになります。その結果、他の人材と入れ替えたいはずのポジションが空かないままになります。日本の労働市場が硬直的といわれるのは、そういった背景が影響しています。
能力不足の社員を雇い続ける会社側も、能力不足だと思われながら雇われ続ける社員側も、どちらも不幸です。
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