設備投資に1486億円 「富士山登山鉄道」構想に推進・反対派が真っ向対立 問題点はここだ(1/5 ページ)

» 2024年11月08日 08時00分 公開
[森川天喜ITmedia]

筆者プロフィール:森川 天喜(もりかわ あき)

旅行・鉄道作家、ジャーナリスト。

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など。


 富士山北麓の山梨県富士吉田市と、富士山五合目を結ぶ壮大な登山鉄道を建設する構想が持ち上がっているのをご存じだろうか。

富士山に登山鉄道を建設する構想を巡り、激論が交わされている(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 この「富士山登山鉄道構想」は、長崎幸太郎山梨県知事が2019年に知事選に出馬したとき以来の公約だが、最近、地元の富士吉田市を中心にいくつかの反対団体が発足。双方の主張が真っ向からぶつかる事態となっている。

 10月28日には県が「富士山登山鉄道構想 事業化検討に係る中間報告」を公表。一方、中心的な反対団体である「富士山登山鉄道に反対する会」(会長:上文司厚=北口本宮冨士浅間神社宮司)は、同31日に「富士山登山鉄道構想に反対するフォーラム」を開催した。

「富士山登山鉄道構想に反対するフォーラム」には山梨県下の首長で唯一登山鉄道構想に反対している、堀内茂富士吉田市長も登壇(筆者撮影)

 本記事では構想を推進する県と反対派双方の主張を見ながら、富士山登山鉄道の実現可能性を探ってみたい。

運賃「往復1万円」は妥当か?

 「富士山登山鉄道構想」は、県が設置した「富士山登山鉄道構想検討会」によって2021年2月に策定された。富士山の公共交通を巡っては、過去にも地元の交通事業者である富士急によるトンネルケーブルカー計画や、富士五湖観光連盟が登山鉄道建設の提言を行ったこともあったが、具体的な動きにはつながらなかった。

 今回の登山鉄道構想が持ち上がった背景には、富士山のオーバーツーリズムがある。2013年6月に富士山が世界文化遺産に登録されたことなどから、山梨県側から五合目を訪れる観光客数は、2012年の231万人から2019年には506万人にまで増加。

 ゴミ問題やトイレの処理能力の低下など、このままでは富士山の自然環境が破壊されるとの懸念から、有料道路・富士スバルライン上に登山鉄道を敷設し、救急車などを除く一般車両の乗り入れを規制することで、入山者数を管理しようという意図があるのだ。

 では、この登山鉄道構想は具体的にはどのようなものなのか。

 「富士山登山鉄道構想」によると、五合目行きシャトルバス発着場のある「富士山パーキング」(富士山北麓駐車場)付近に、起点となる「山麓駅」を設ける。ここから富士スバルライン上に軌道を敷設し、路線の拡幅などの改変は原則行わず、五合目までの約25〜28キロの区間にLRT(次世代型路面電車)を整備するというものだ(途中駅は4カ所に設置する)。

富士山登山鉄道(LRT)予想図。10月に公表された「中間報告」では図のような低床型車両ではなく、箱根登山鉄道のような一般型車両が優位であるとされた(出所:山梨県)
富士山登山鉄道想定ルート図(出所:山梨県「富士山登山鉄道構想」)

 今回出された「中間報告」で注目すべき点として、往復1万円という高額な運賃設定を前提として、「乗車する客層は一定程度のミドルアッパー層が高い割合を占めることが想定される」とし、五合目駅付近にラクジュアリーホテルなどを建設。また、山麓駅周辺にもリゾートホテルやMICE施設などを建設するといった付帯事業にも言及し、それらを含む経済波及効果も試算していることが挙げられる。県がどのような開発を想定しているのか、全体の青写真が見えてきた感じだ。

 だが、現在の富士急のシャトルバスの運賃が往復2500円であることと比較すると、大幅な値上げとなる。国民の共有財産である富士山に一部の富裕層しか登れなくするのが妥当なのかといった意見は、今後、当然出てくるだろう。

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