デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
1990年に米イリノイ州シカゴ郊外で創業したUlta Beauty(アルタ・ビューティ)は、米国最大の化粧品小売チェーンとして急速な成長を遂げています。現在、全米で1385以上の店舗を展開し、2023年度は売上高112億1000万ドル(1.68兆円:1ドル150円計算)を達成しています。
デジタルを活用した急成長によって5万6000人以上の従業員を雇用し、ロイヤルティプログラム会員数は4400万人を超え、化粧品小売業界においてセフォラと並ぶ世界有数の企業になりました。
セフォラについては、前回の本連載で取り上げましたが、セフォラとの戦略的な違いが、Ultaの独自性を際立たせています。今回は、成長を続けるUltaの強みやデジタル改革について紹介します。
(関連記事:AI活用でEC売り上げ伸長 コスメ世界大手「セフォラ」が進める、攻めのデジタル戦略とは?)
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
まずは出店戦略から見てみましょう。
Ultaはスーパーマーケットやディスカウントストアの近くにある郊外の路面型ショッピングモール(駐車場を囲むように店舗が一列に並んだ形式の商業施設)や都市型商業施設に出店しています。これは、生活者が普段の買い物のついでに立ち寄りやすい場所を重視しているからです。
対照的に、セフォラは中型〜大型のショッピングモールや百貨店を中心に展開してきましたが、近年では地域密着型の店舗展開も開始しています。しかし、Ultaほど郊外への進出には積極的ではありません。
Ultaは北米で1385店舗を展開しています。ネット通販が伸びた後でも、顧客の88%が引き続き実店舗での買い物に興味を持っているという自社調査を踏まえ、2024〜26年にかけて200店舗の新規出店を計画しています。一方、セフォラは35カ国以上で2700店舗以上を展開し、グローバルな市場での存在感を示しています。
Ultaは4400万人以上の会員を保有し、売り上げの多くをロイヤルティプログラム会員が占めています。
そして、Ultaのネット通販売り上げの約3分の2はアプリによるものです。アプリはネット通販売り上げを伸ばすために重要なだけではありません。アプリユーザーによる売り上げの大半は実店舗で発生しており、アプリは会員1人当たりの売り上げを伸ばすための重要なツールとなっています。
投資家会議のデータによると、さまざまなタッチポイントでブランドと接触し、実店舗とオンラインの両方で買い物をする「オムニチャネル顧客」は、単一のチャネル(実店舗またはオンライン)に限定された顧客の3倍の支出をしていました。また、購入頻度もオムニチャネルの顧客の方が単一のチャネルを利用する顧客よりも8倍多かったそうです。
これだけの成果を上げるポイントとして、顧客一人一人に合わせたパーソナライズが挙げられます。
UltaはGoogle Cloudとのパートナーシップにより、クラウドベースのデータ分析と機械学習を活用しています。販売データ、取引データ、製品レビュー、ソーシャルメディアのエンゲージメントなど、多様なデータを統合・分析し、顧客一人一人に最適化されたサービスをロイヤルティプログラムと連動させることで大きな成果を上げているのです。
2021年、Ultaは米国を代表する大手小売チェーンで日用品から衣類、食品まで幅広い商品を手頃な価格で提供するTarget(ターゲット)と提携を始めました。まず、Targetの店舗内において、化粧品売り場のすぐ隣にUltaコーナーを100カ所開設しました。
品ぞろえは両社で選び、接客はUltaが教育したTargetの従業員が担当しています。
また、両社のポイントカードを簡単に連携できるようにしました。結果として100万人以上の顧客が両社のポイントカードを連携させました。
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