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2.5次元ブームに湧く舞台ビジネス 鈴木おさむ最後の脚本『ブルーサンタクロース』の狙い(1/2 ページ)

» 2024年12月14日 05時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元の舞台「2.5次元ミュージカル」を筆頭に、日本の舞台ビジネスが沸いている。

 2023年6月にはサイバーエージェントが、2.5次元ミュージカルなどを手掛ける舞台製作会社ネルケプランニングを買収。2024年10月には、米ニューヨークの「New York City Center」で『進撃の巨人』-the Musical-(英タイトル:ATTACK on TITAN:The Musical)を上演した。日本発のライブエンターテインメントが、世界でも認められている状況だ。

 ぴあ総研が公表した2.5次元ミュージカル市場動向の推計によると、2023年の市場規模は、対2022年増減率7.9%増の283億円だった。コロナ禍によって2020年は77億円まで落ち込んだものの、2021年から3年連続で過去最高記録を更新している。タイトル数も2019年の作品数を超え、市場規模の増加に寄与した「刀剣乱舞ONLINE」シリーズをはじめ過去最高の236本を上演したという。

phot ぴあ総研が公表した2.5次元ミュージカル市場動向の推計

 そんな中、ホリエモンこと堀江貴文氏主演&プロデュースのミュージカル『ブルーサンタクロース』が、12月18日まで東京キネマ倶楽部(東京都台東区)で上演している。本作は2018年から2023年にかけて毎年、同時期に公演していたミュージカル『クリスマスキャロル』を一新した新作だ。インターネットテレビ「ABEMA」は、ABEMA PPV(アベマ ペイパービュー)で、同公演を12月18日午後7時に独占配信する。

phot 「ABEMA」は、ABEMA PPV(アベマ ペイパービュー)で、同公演を12月18日午後7時に独占配信する。絵はクリエーターエージェンシー「コルク」所属の羽賀翔一氏が描き下ろした(プレスリリースより)

 脚本はNetflix『極悪女王』が話題の元・放送作家の鈴木おさむ氏が書き下ろした。『ブルーサンタクロース』公演の狙いを、演出を担当したウチクリ内倉氏に聞いた。同氏は俳優として舞台「『刀剣乱舞』山姥切国広 単独行 -日本刀史-」などにも出演している。

phot ウチクリ内倉。俳優、脚本家、演出家。舞台プロデューサー。俳優として舞台『刀剣乱舞』や『MASHLE』THE STAGEに出演する中、演出家としても数々の舞台を作り上げる。ライフワークとして『ウチクリ准教授の演劇研究室』を手掛ける

ディナーと共に楽しむ観劇スタイル 真意は?

 『ブルーサンタクロース』は、観客がただ単に劇を見るのではなく、ディナーを楽しみながら観劇するスタイルが特徴だ。チケットは、一番安い軽食付きの椅子席を1万2000円で提供し、ディナー付きテーブル席は5万円、VIP席になると15万円に設定している。VIP席の観覧者には幕間で堀江氏をはじめとする出演者があいさつに回り、歓談もできるようにした。席数もVIPの割合が多い。

 上演中、ソフトドリンクやアルコール類は飲み放題で、静かに観劇する従来のミュージカルの在り方に一石を投じている。この観劇スタイルは、2023年まで上演していた『クリスマスキャロル』と変わっていない。主に富裕層をターゲットにしているものの、これまでチケットが完売した公演もあり、反響は上々だ。プロデュースを務めた堀江氏は「クリスマスのこのミュージカルを楽しみにしてくれる人も増えてきた」と話す。

phot 鈴木おさむ氏が脚本を書き下ろした。堀江氏自身を投影した役柄で、冒頭は約12分間の独白から始まる

 「長く続けているうちに、飲食しながら観劇するスタイルにも抵抗がなくなってきて、昔の基準から言えば多少チケットが高くても売れています。2023年は8000円だった椅子席も、軽食を付ける形にして1万2000円に値上げしました。しかし、すぐに売り切れました。いままでためてきたノウハウを運営にかなり生かせています」(堀江氏)

 過去6回にわたって公演した『クリスマスキャロル』を、今年は『ブルーサンタクロース』に変えた。この作品の脚本は元・放送作家の鈴木おさむ氏が書き下ろしている。鈴木氏は2024年3月末で放送作家業と脚本業からの引退を表明しており『ブルーサンタクロース』が最後の舞台脚本となるという。

 完全新作の劇となっていて、これまでの『クリスマスキャロル』ではできなかった工夫をした。『ブルーサンタクロース』の演出を手掛けたウチクリ内倉氏は「新たな観劇の在り方に合わせた演出を心掛けた」と話す。

 「お客さんには演劇の開始から食事を楽しんでもらえる内容のため、前半部分はあまりドラマティックな展開にしていません。テレビ番組仕立ての掛け合いなどもあり、飲食をしながら気軽に楽しんでいただける演出を心描けました。皆さんの食事が終わる中盤から終盤近くになると、ドラマが一気に動き出し、観客が物語に引き込まれるような構成にしています」(ウチクリ氏)

phot 美崎牛のハンバーグカレー ポルチーニの香り。東京・赤坂「amorphous」(アモルファス)の李俊煌(イ チュンファン)シェフがプロデュースした

全体の半分弱を占めるクリスマスJ-POP

 全体で2時間弱の公演時間のうち、半分弱がミュージカルパートで占められている。その楽曲には山下達郎「クリスマス・イブ」や松任谷由実「恋人がサンタクロース」、稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」、レミオロメン「粉雪」など、J-POPを代表するクリスマスソングを配した。

 「全体のうち約55分をJ-POPを歌うパートにしています。普段ミュージカルや演劇を見にこない人でも楽しめるように、誰もが知っているJ-POPを積極的に取り入れました。通常、ミュージカルはせりふをそのまま歌わせるのですが、今回は既存の歌詞を歌わせるため、歌詞と劇の流れを合わせる部分が悩みどころでした。この演出はもともと鈴木おさむさんの脚本にはないものなので、この部分を考えることが特に大変でしたね」(ウチクリ氏)

 主演のブルーサンタクロース役を務めた堀江氏も、「普段演劇を見にこない人たちを見にこさせるにはどうしたらいいか。役者としてだけでなく、せりふなど演出面もウチクリさんと一緒になって考えた」と振り返る。

 新しい客層を意識した要因の一つが、2.5次元ブームによる観劇人口の増加だ。

 「この10年間で、演劇をめぐる環境は変わってきていると思います。10年前は、それこそ『演劇って食えないんでしょ』というネガティブな見方をされることも珍しくありませんでした。ところが、近年では2.5次元ブームによって演劇全体の需要が増え、認知度が上がってきているように感じます」(ウチクリ氏)

 ウチクリ氏自体、俳優業と演出業を兼務しており、俳優業としてはゲーム『刀剣乱舞』やジャンプ漫画『マッシュル-MASHLE-』などの2.5次元の舞台にも多く立っている。20年以上のキャリアの中でも、特に最近の舞台ビジネスの盛り上がりには目を見張るものがあるという。

phot 松任谷由実「恋人がサンタクロース」
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